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黙阿弥といえば、粋な七五調のセリフを思い出す人は多いでしょう。歌舞伎を普段から観なくても、お嬢吉三(おじょうきちさ)の「月も朧に白魚の」や弁天小僧(べんてんこぞう)の「知らざあ言って聞かせやしょう」などを口ずさめる人が多くいます。 もともと七五調は、奈良朝末期ごろから韻文(いんぶん)の主流となり、中世期の軍記や謡曲(ようきょく)、近代の唱歌(しょうか)に至るまで、その軽快で優美な調子が好まれて用いられてきました。歌舞伎のセリフにも黙阿弥以前から使われてきたのですが、七五調セリフの流麗さが黙阿弥作品の特色とされています。その理由はおそらく、黙阿弥自身が日本人に七五調が好まれることをよく知り、登場人物のおかれた状況説明や心境の独白といったクローズアップすべきポイントで的確に用いたのと、音楽性豊かな作風とのマッチによるものでしょう。そのために黙阿弥の七五調セリフは、まるで役者の口で語られる浄瑠璃(じょうるり)、音にのせた詞の朗詠(ろうえい)のように洗練されて聞こえるのです。
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