義経を慕って春の大和路を吉野へ向かう静御前が初音の鼓を打つと、家臣・佐藤忠信が現れ、旅の供をします。追想に耽りながら、踊るように歩む2人の行く手に、吉野の山々が見えてきます。
九州へ落ちようとした源義経(みなもとのよしつね)一行が海上で暴風に遭い、今は吉野にいると聞いた静御前(しずかごぜん)は、噂をたよりに大和へ向かっています。
静は旅の憂さを晴らそうと、義経を想いながら初音の鼓を打ち始めます。澄んだ音色が響くと、遅れていた佐藤忠信(さとうただのぶ)が旅姿で忽然と現れました。
忠信は、義経から賜った鎧(よろい)を取り出し、この鎧は兄の佐藤継信(さとうつぎのぶ)が義経様に忠を尽くしてお仕えしたおかげにいただいたものと、継信が最期を遂げた合戦を追想します。敵の矢が飛んでくるなか、継信が義経の身替りとなり、強弓の猛将・平教経(たいらののりつね)に射抜かれたことなどを、忠信は勇壮に語りました。
互いに励まし合いながら、2人がなおも義経の後を慕って旅を続けていると、吉野の山々が見えてきました。
※ 治承・寿永の乱で起きた「屋島の合戦」は、原文に従い「八島の合戦」と表記しています。