『隅田川』では、12歳の梅若丸が人買いによって奥州に連れて行かれる途中で病気になり、隅田川で打ち棄てられ、亡くなったとされています。
中世には子どもを対象とした人身売買(じんしんばいばい)が横行しており、誘拐に近い形で連れていかれ、取引されることもありました。こうした人買いは、都市や港において物資の流通や宿屋の経営に関わる者の中に、存在したようです。開発途中であった東国や奥州では特に労働力が求められており、鎌倉後期の説話集『沙石集(しゃせきしゅう)』の中にも、身売りした者など多くの人を引き連れて東国へ下向する人買いの姿が描かれています。朝廷や鎌倉幕府は人身売買を原則として禁止する法を定めており、室町幕府も人身売買を禁止していたと推測されていますが、実際には、飢饉(ききん)や貧困などの要因もあって人身売買がなくなることはありませんでした。