知る法会

法会の種類

法会とは

 天下泰平・五穀豊穣といった願いごとや、 開祖 の命日(めいにち)にその遺徳(いとく)を讃(たた)えて供養するなど、ある目的をもって仏教の儀式を行う僧侶の集まりを「法会(ほうえ)」といいます。また、法会において仏をまつりその教えを説く場所を道場(どうじょう)といいます。

僧侶の衣体

 仏教儀式である法会を執り行うのは、仏の弟子であり、仏教の修業をしている僧侶です。僧侶はさまざまな決まり事の中で仏教修行をしていますが、その中に衣体(えたい)という、衣服や持ち物についての決まり事もあります。

法衣とは

 仏教発祥の地である古代インドでは、僧侶が財産を持つことが禁じられていました。そのため、捨てられた衣類や布を縫(ぬ)い合わせ、草木や金属の錆(さび)で染め直した色(壊色:えじき)の布を身に着けていました。この壊色を 梵語 ではカシャーヤ(kaṣāya)といい、のちに僧侶の衣を指す言葉となりました。この読みに漢字をあてたものが袈裟(けさ)です。
 こうした決まり事が仏教とともに各国へ伝わりましたが、その国の気候や風土に合わせて袈裟の下に衣服を着けるようになりました。この袈裟の下に着けるものを法衣(ほうえ・ほうい)とよび、袈裟と区別するようになりましたが、日本では、袈裟を含み、僧侶が身に着ける衣服を法衣とよんでいます。

法衣の色

 仏教儀式である法会などでは、色鮮やかな法衣をまとった僧侶が儀式を執り行っています。宗派によっては、僧侶によってさまざまな色の法衣を着ていますが、これは、僧侶の階級をその色で表しているからです。色で階級を示すようになったのは、冠の色や大きさで位を示す制度である冠位十二階(かんいじゅうにかい)が603年に定められてからです。僧侶は、最上級色は紫など、その階級によって色が定められました。またかつては下位の僧侶が身に着けていた黒の法衣も、今では階級に関係なく着られています。

袈裟

  袈裟は、古代インドからの名残りで、今でも小さな布を縫い合わせて作られています。日本では、法衣を着た上に装飾的に着けることが多いです。
 小さな布を縫い合わせるのは、大きな布を使うと衣服に対する欲望がおこるためです。一枚の長い布と短い布をつなぎ合わせて一条とし、これを縫い合わせた数で五条、七条、九条もしくは二十五条と三種の袈裟に分けています。これを三衣(さんえ)といいます。
 五条袈裟は安陀会(あんだえ)とよばれ、寺内での掃除や雑行など、もっとも身近に着けるものです。七条袈裟は鬱多羅僧衣(うったらそうえ)とよばれ、読経したり講義を聞いたりするときに着けています。そして九条もしくは二十五条袈裟は僧伽梨衣(そうぎゃりえ)で、大衣(だいえ)や重衣(じゅうえ)ともいわれ、王宮に入る時などに着ける最上の正装衣をいいます。

法具・仏具

 仏教儀式において、僧侶はさまざまな法具・仏具をもって執り行います。これらは仏教儀式のための特別な道具であり、また僧侶を装飾する道具でもあります。

おもな法具・仏具
中啓(ちゅうけい)
 たたんでいる時にも先の方が広がっている扇です。広げて用いることはあまりありませんが、履物の向きを整える際に手ではなく、中啓の要(かなめ)を用いて行うという作法もあります。法衣の前の合わせのところに差したり、襟元に差したりします。
数珠(じゅず)
 念珠(ねんじゅ)などともよばれます。穴を開けた108個の珠(たま)を紐(ひも)でつないだもので、仏を念ずる時などに用いられます。
散華・散花(さんげ)
 道場 を清めるために撒(ま)きます。その多くは、蓮(はす)の花びらを模(かたど)った紙製のもの(華葩(けは))を撒きますが、ごく稀(まれ)に生花を用いることもあります。
華籠(けこ)
 仏教儀式で散華を置くための籠(かご)です。竹製のものや金属製のものがあり、金属製のものには3か所に長い組み紐を下げて飾りとしています。
柄香炉(えごうろ)
 香を焚(た)く香炉に柄(え)をつけ、持ち運びできるようにしたものです。その香の煙で、自身とその周りを清めます。

衣体のいろいろ

 衣体(法衣や持ち物)は、宗派によって異なります。ここでは、天台宗(てんだいしゅう)、真言宗豊山派(しんごんしゅうぶざんは)、浄土宗縁山流(じょうどしゅうえんざんりゅう)、日蓮宗(にちれんしゅう)の衣体をご紹介します。

天台宗

 法衣は素絹(そけん)、袈裟は五條(ごじょう)袈裟、袴は切袴(きりばかま)、帽子(ぼうし)を着用しています。右手には中啓(ちゅうけい)、左手には念珠(ねんじゅ)を持っています。
 ほとんどの法会の際に用います。
 素絹五條切袴は応当衣(おうとうえ)とも言い、僧階により色が定められています。
 この素絹は「松襲(まつがさね)」といい、経糸(たていと)と緯糸(よこいと)で違う色を用いているため、光の当たり加減で色が変化しさまざまな表情に見える法衣です。

真言宗豊山派

 近年、大般若転読会などの晴の儀式で着用することが多い組み合わせです。
 法衣は色衣直綴(しきえじきとつ)(紫)、袈裟は金襴(きんらん)五條、袴は切袴を着用しています。右手には中啓を持ち、左腕に半装束念珠(はんしょうぞくのじゅず)をかけています。
 厳儀(げんぎ:おごそかな儀式)で被着するものほど厳格ではなく、略でもない、衣体です。それぞれに、もう一段階、二段階上のものもありますが、普通は全員で揃えることが難しく、宗派の大行事でもなければ被着することは少ないです。声明公演ではほとんどこのスタイルです。
 色衣直綴は、正規の法衣であり、僧階によって色が指定され、僧階より上の色を被着することはできません。僧階の高い順に、緋(ひ:濃く明るい赤。朱)、紫、萌黄(もえぎ:緑)、黄色(おうしき:黄)、浅黄(あさぎ:薄い藍色。水色)です。
 また、色衣ではありませんが、直綴には木蘭(もくらん:様々な茶色)、黒などもあります。
 色衣は、色が宗派ならではの特徴があります。また、五條袈裟には紋が入ることがあり、真言宗豊山派では、宗紋の輪違(わちがい)と五七桐(ごしちのきり)を用います。

浄土宗縁山流

 顕色(けんしょく)七条袈裟、道具衣(どうぐえ)、大紋切袴(だいもんきりばかま)、領帽(りょうぼう)を着用しています。
 荘厳(しょうごん)数珠、檜扇(ひおうぎ)を持っています。
 化他(けた:他人を教え導くこと)の法要を勤める際の第一正装です。
 僧階に応じて色が決められています。大僧正は緋色、正僧正及び僧正は紫色、大僧都及び僧都は松襲(まつがさね)色、少僧都及び律師は萌黄(もえぎ)色。ただし正僧正の僧階にして 、特に浄土門主の允許(いんきょ:許可)を得たときは、緋衣、大僧都の僧階にして、紫衣を被着することができます。

日蓮宗

 衣は直綴(じきとつ)ですが、日蓮宗では正式の法衣という意味で本衣といいます。本衣は僧階に応じてさまざまな色が配当されているところから、色衣ともいいます。
 袈裟は五條袈裟、袴は切袴です。切袴は、指貫の形の袴(襠(まち)付)で裾の丈で切ったものをいいます。紋は浮織の八藤大紋が正式ですが、現在はその他のものも用いられています。
 右手には中啓を持っています。朱骨金銀紙張あるいは白骨金銀紙張を使用します(場合によっては他の物を用いる場合もあります)。
 左手に持った数珠(念珠)は百八顆(か:つぶ)の半装束と呼ばれる物で、白檀で房仕立のものです。
 法要の折に被着しますが、諸役によって他の衣帯を用いる事もあります。
 法服規程で僧階により、着用できる袈裟・衣の色が細かく定められています。
 日蓮宗の七條袈裟は左の端に一條分折り返しがあり、袖口の処に乳(ち:紐を付けるための輪)がついているため左腕を通して止め、左肘をほぼ直角に折りまげ、数珠を持った左拳を胸元に置きます。
 五條は本来、「大威儀」は肩に、「小威儀」は腕に懸けたものですが、日蓮宗では大威儀・小威儀ともに肩紐で結びます。

法会の形式

法会と法要

 法会では、その目的に応じて儀式の形式が整えられており、ある一定の構成をもった式次第(しきしだい:プログラム)が組まれています。例えば、四箇法要(しかほうよう)や論義(ろんぎ)、法華懺法(ほっけせんぼう) などを法要といい、法会は、僧侶が勤めるこれらの「法要」を単一で、もしくは複数の「法要」を組み合わせることで成り立っています。ただ今日では、曼荼羅供(まんだらく)・理趣三昧(りしゅざんまい)・大般若転読(だいはんにゃてんどく)などの法要は、法会自体の名称としても用いられているように、「法会」「法要」は、ほぼ同義として捉えられています。また法会が無事に執り行われた後、楽や舞など俗人(僧侶ではない人)による「 法楽 」が加わることもあります。

密教立と顕教立

 密教(みっきょう)の形式で行う法会を密教立(みっきょうだて)、顕教(けんぎょう)の形式で行う法会を顕教立(けんぎょうだて)といいます。

 密教は、仏教における真理を説いた教えです。理解するには深く、また難しいため、簡単には明らかにできない秘密の教えとされています。修行を重ねることで理解し、悟りを開いて仏になることができると考えられています。密教立の法会では、 導師修法 が中心となります。

 顕教は、秘密にすることなく、大衆にも分かりやすく言葉や文字によって説く教えをいい、真言宗を開いた 空海 が、真言密教を説明するために作った言葉だといわれています。顕教立の法会は、仏教の教えやその歴史を説くことを主とするもので、おもに論義や講式(こうしき)などが行われます。導師の修法は行われません。

豆知識 密教と仏教画
密教の 道場 には、曼荼羅(まんだら、曼陀羅とも)という仏教画が飾られます。これは密教経典に基づいて仏や菩薩などが集会する様子を表した絵画(図)で、視覚的にその教えを伝えようとしたものです。描かれているのは真言密教の教主である大日如来の智慧(ちえ)と慈悲を表した世界です。その真実の智慧がダイヤモンドのように堅固で壊れないことを表したのが金剛界曼荼羅(こんごうかいまんだら)、衆生に対する仏の大きな慈悲を、胎内で子どもを育てる母親のような深い慈しみに例えて表したのが胎蔵(界)曼荼羅(たいぞう(かい)まんだら)です。法会などでは東西に向かい合うように飾られ、両界曼荼羅(りょうかいまんだら)といわれます。そして大日如来以外の仏を中心に描かれた曼荼羅を別尊曼荼羅(べっそんまんだら)といい、おもに修法の際の 本尊 として飾られます。

金剛界曼荼羅
所蔵:総本山 金剛峯寺

胎蔵曼荼羅
所蔵:総本山 金剛峯寺

おもな法会

1月初旬 修正会(しゅしょうえ) 新しい年の初めに、一年間を穏やかに、豊かな暮らしができるよう祈願します。
2月3日 節分会(せつぶんえ)・追儺会(ついなえ) 旧暦の大晦日(おおみそか)に、新年を迎えるためにさまざまな不幸・災をもたらす「鬼」を払い、厄除来福を祈願します。
2月15日 涅槃会(ねはんえ)・常楽会(じょうらくえ) 釈迦入滅 した日に、その遺徳を偲(しの)び、追慕し、報恩します。釈迦が入滅した時の様を描いた「涅槃図」を掲げて行われます。
4月8日 降誕会(ごうたんえ)・灌仏会(かんぶつえ)・仏生会(ぶっしょうえ)・花まつり 釈迦の誕生を祝います。
12月8日 成道会(じょうどうえ) 修行して悟りを開くことを「成道」といい、特に釈迦が悟りを開いて仏となったことを記念して行われます。

※降誕会・成道会・涅槃会を合わせて「釈尊三大法会」「三仏会(さんぶつえ)」などといわれています。

そのほか 仏名会(ぶつみょうえ) 仏名経を読んで三世諸仏(過去・現在・未来に存在するすべての仏)の 名号 を唱え、その年の 罪障懺悔 し消滅を祈ります。
大般若会(だいはんにゃえ)・大般若転読(だいはんにゃてんどく) 大般若経600巻を転読する法要で、各巻の経題等を読み上げます。「転読」とは、1字1字読誦する「真読(しんどく)」に対する略読を意味します。折本(おりほん)の表裏の表紙を両方の手で持ち、経巻を右または左に傾けながら、本文の紙をぱらぱらと一方へ落とすようにする作法で祈願します。
施餓鬼会(せがきえ)・施食会(せじきえ) 盆や彼岸の時期を中心に行われる法要で、餓鬼に対して飲食を施して供養します。
盂蘭盆会(うらぼんえ) 盆の時期を中心に行われる法要です。先祖や故人を偲び、供養します。
〇〇忌(〇〇き)・〇〇祥忌(〇〇しょうき) 開祖 などの祥月命日に、その遺徳を偲び、追慕し、報恩するための法会です。宗派によって、御会式(おえしき)、御忌会(ぎょきえ)、報恩講(ほうおんこう)、御影供(みえく)など、法会名が異なります。

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