ユネスコ無形文化遺産 歌舞伎への誘い INVITATION TO KABUKIユネスコ無形文化遺産 歌舞伎への誘い INVITATION TO KABUKI

演出と音楽

さまざまな情景の表現幕切の演出

ある場面が終了するとき、歌舞伎では幕が引かれることが通例です。「幕切(まくぎれ)」と呼ばれる、その締めくくりの時間には、観客に強い印象を残すための、さまざまな演出が行われます。

絵面の見得(えめんのみえ)

歌舞伎には、気持ちの高ぶりを体勢に込め、その形をしばらくのあいだ静止させる、「見得(みえ)」という演技術があります。「幕切」には、登場している人物すべてが「見得」を行うことで、舞台全体を絵のように均整のとれた構図にする「絵面(えめん)の見得」という演出手法が、よく用いられます。人物たちの関係や状況が視覚的に表された、緊張感のある舞台の様子は、俳優たちが互いに引っ張りあっているようにも見えるため、「引っ張りの見得」とも呼ばれます。

三段を使用した幕切

「時代物(じだいもの)」や舞踊劇などの「幕切」では、緋毛氈(ひもうせん)に包まれた「三段」と呼ばれる階段を舞台の中央に置く場合があります。この段には公演の最上位の俳優である「座頭(ざがしら)」や、女性の役を演じる俳優の最上位である「立女方(たておやま)」が登り、左右に並んだ他の俳優たちとともに「見得」をします。これによって、「座頭」や「立女方」の存在感が際立ち、舞台も豪華で祝祭的な雰囲気となります。

幕外の引込み(まくそとのひっこみ)

幕が引かれた後も、「花道(はなみち)」という、舞台から伸びる廊下のようなところに俳優が残って、演技を続けることがあります。余韻を持たせながら徐々に退場していく演出手法で、「幕外の引込み(まくそとのひっこみ)」と呼ばれます。たとえば、『一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)』という演目の、「熊谷陣屋(くまがいじんや)」という場面における、團十郎型(だんじゅうろうがた)と呼ばれる演出は、その代表的なものです。戦いのなか、まだ少年であった息子を犠牲にせざるを得なかった、熊谷直実(くまがいなおざね)という勇猛な武将は、世の無常を憂い、僧侶となります。静かな三味線の独奏に送られ、「十六年は一昔、夢だ、夢だ」と詠嘆しつつ、熊谷は一人で花道を退場していきます。