ユネスコ無形文化遺産 歌舞伎への誘い INVITATION TO KABUKIユネスコ無形文化遺産 歌舞伎への誘い INVITATION TO KABUKI

演出と音楽

さまざまな情景の表現松羽目物の演出

歌舞伎は、先行する芸能であった能や狂言の影響を、早くから受けてきました。とくに、19世紀半ばに初演された『勧進帳(かんじんちょう)』以降は、歌舞伎が古典化・高尚化していく流れのなかで、能や狂言を歌舞伎化した「松羽目物(まつばめもの)」と呼ばれる、多くの作品が作られました。

『勧進帳』
国立劇場(Y_E0100242012022)

「松羽目物」では、次のような演出を組み合わせて、総合的に能や狂言の雰囲気を出します。

『勧進帳』
国立劇場(Y_E0100242012022)

大道具

「松羽目物」という名は、「松羽目」とよばれる松が描かれた羽目板(はめいた:板を平らに張ったところ)を、舞台正面の大道具とすることから付けられました。この松は、能舞台に描かれる老松を写しています。また下手にある五色の「揚幕(あげまく)」、上手にある「臆病口(おくびょうぐち)」とよばれる演者の出入り口も能舞台を模したものです。

衣裳

『安宅(あたか)』という能の演目を、歌舞伎へ移した『勧進帳』では、衣裳においても能の装束を基本にしています。たとえば、登場人物の弁慶(べんけい)が身につける「大口(おおくち)」は、布のあいだに分厚い芯を入れて形が崩れにくいようにした、特別な袴(はかま)です。

せりふ

能や狂言では、登場した人物が自らの素性や物語の経緯を説明する「名乗り」というせりふがあります。「松羽目物」はこの「名乗り」を取り入れています。『勧進帳(かんじんちょう)』では、「斯様(かよう)に候う者は、加賀の国の住人富樫の左衛門(とがしのさえもん)にて候。」という、登場人物の「名乗り」から始まるうえ、そのせりふの言い回しは重々しく、内容においても、能や狂言でよく用いられる「候(そうろう)」文が多用されて他の歌舞伎作品とは異なっています。

この他、「長唄(ながうた)」の一節を謡曲風(ようきょくふう)に唄う「謡がかり(うたいがかり)」や能の囃子(はやし)を取り入れた「鳴物(なりもの)」の演奏など、格調高く表現するために音楽の面でも能や狂言を取り入れています。