ユネスコ無形文化遺産 歌舞伎への誘い INVITATION TO KABUKIユネスコ無形文化遺産 歌舞伎への誘い INVITATION TO KABUKI

演目代表的な演目

桜姫東文章さくらひめあずまぶんしょう

世話物

作品のあらまし

4代目鶴屋南北(つるやなんぼく)の作で、長い間上演が途絶えていましたが、戦前に復活され、戦後に至りたびたび上演されるようになりました。南北が得意とした因果話(いんがばなし)や幽霊などの怪奇趣味が多く散りばめられ、見どころの多い作品です。

物語は、僧・清玄(せいげん)と稚児(ちご)の白菊丸(しらぎくまる)による江の島での心中から始まります。

1人命を取り留め、17年後に高僧となった清玄は、出家を望んで寺にやってきた吉田家の息女・桜姫(さくらひめ)が、実は白菊丸の生まれ変わりだと知ります。桜姫は、強盗に入った釣鐘権助(つりがねごんすけ)の子を生み、今でもその権助を忘れられない罪の深さを償おうと、出家を思い立ち寺を訪れたのでした。しかし桜姫は、偶然桜谷の草庵で恋しい権助と再会します。

この後、桜姫に白菊丸の面影を追う清玄と、密通がばれて吉田家を追われた桜姫が、めまぐるしく変転していきます。

見どころ1

平成5(1993)年11月
国立劇場大劇場 第182回歌舞伎公演
『桜姫東文章』「桜谷草庵の場」
桜姫:中村 雀右衛門【4】
釣鐘の権助 実は 信夫の惣太:松本 幸四郎【9】(現:松本 白鸚【2】)

歌舞伎におけるラブシーンは「濡れ場(ぬれば)」とよばれ、多くの場合は音楽に合わせて様式的な動きで演じられます。「桜谷草庵の場(さくらだにそうあんのば)」での桜姫と権助の「濡れ場」は、「恋による花も思いのひとくもり」ではじまる「独吟(どくぎん)」に合わせて、大胆ですが踊りのような様式化された動きで表現されます。「独吟」は、1人で歌われる「下座音楽(げざおんがく)」の「唄」をさし、しんみりした場面を効果的に演出します。

見どころ2

江戸時代の人々は身分によって、言葉使いがかなり異なっていました。大名家の娘であった桜姫ですが、「権助住居の場(ごんすけすみかのば)」では女郎に身を落とし、風鈴お姫(ふうりんおひめ)を名乗っています。この場面の桜姫は、女郎の粗雑な言葉遣いになっていますが、会話の節々に大名家の姫らしい公家(くげ)言葉が混ざります。こうしたちぐはぐな取り合わせの面白さは、洒落っ気を持った作者南北の独特の手法です。