作品のあらまし
能の『安宅(あたか)』の影響を受けて作られた「松羽目物(まつばめもの)」の作品です。山伏一行に扮して奥州の平泉(ひらいずみ)へと落ち延びていく源義経(みなもとのよしつね)・弁慶(べんけい)の一行が、安宅の関を通過する際の攻防を描いています。義経を捕らえる命令を受けている関守たちは一行を執拗に詮議し、一行は何とか通過しようと知略を尽くします。
弁慶と関守・富樫左衛門(とがしのさえもん)による息詰まる「山伏問答(やまぶしもんどう)」や、四天王を抑える弁慶が富樫と詰め合う場面、弁慶の「延年の舞(えんねんのまい)」・「飛び六方(とびろっぽう)」など、多くの見どころがあります。
弁慶の演技には、豪快さの中にも思慮深さが求められ、また朗々としたせりふ術と舞踊の素養が必要な難役です。対する富樫は、義経一行と知りつつも関を通過させる情(じょう)を必要とします。また義経は、少ない動きの中に源氏の御曹司としての気品を求められます。
7代目市川團十郎(いちかわだんじゅうろう・当時の5代目市川海老蔵[いちかわえびぞう])が、代々の團十郎が得意とした「荒事(あらごと)」の芸を中心に制定した『歌舞伎十八番』の内の1つとして、1840(天保11)年に初演しました。伴奏の「長唄(ながうた)」も名曲で、また演出も名優たちによって洗練されてきたこともあり、現在でも人気が高くたびたび上演されます。

『勧進帳』
国立劇場(Y_E0100242012022)
見どころ
「六方(ろっぽう)」とは、歩いたり走ったりする様子を手足の動きを誇張して象徴的に表現した演技で、おもに「荒事」の役が、「花道(はなみち)」から退場する時に演じられます。舞台に幕が引かれた後に花道を引っ込むこの演出は、弁慶役の見どころの1つで、義経の後を追う様子を象徴的に表しています。