作品のあらまし
紙屋治兵衛(かみやじへえ)と遊女・小春(こはる)の心中事件を描いた「世話物」です。原作は近松門左衛門(ちかまつもんざえもん)の『心中天の網島(しんじゅうてんのあみじま)』ですが、現在上演されている『河庄』は、後に改作された作品を元にしています。
小春と心中の約束をした治兵衛が茶屋の河庄を訪れると、小春は侍の客の相手をしています。その侍は、治兵衛に意見をするためにやってきた兄・孫右衛門(まごえもん)でした。治兵衛は、兄の意見に従って小春と別れることにします。孫右衛門は、小春の懐から治兵衛の妻・おさんの手紙を見つけ、小春がおさんへの申し訳なさから身を引く決意をしたことを察します。
治兵衛役は、「和事(わごと)」の代表的な役の1つです。明治から昭和初期に、大阪を中心として活躍した初代中村鴈治郎(なかむらがんじろう)が、この役を得意としました。
見どころ
平成9(1997)年11月
国立劇場大劇場 第205回歌舞伎公演
『河庄』
紙屋治兵衛:中村 鴈治郎【3】(現:坂田 藤十郎【4】)
小春と心中の約束をし、今日こそ実行する日だと思い詰めている治兵衛は、「魂ぬけてとぼとぼ、うかうか」という「竹本(たけもと)」の語りに合わせて、「花道(はなみち)」から登場します。懐に手を入れて半目を開き、おぼつかない足取りで登場することで「魂がぬけ」た様子を表現します。柔らかな身のこなしで「和事」の色気を見せる、『河庄』の中でも最も有名な場面です。