作品のあらまし
江戸時代の仙台藩伊達家(だてけ)のお家騒動に取材した作品で、奥州の足利家の執権(しっけん)・仁木弾正(にっきだんじょう)や妹・八汐(やしお)らが、足利家の乗っ取りを企む物語です。
乳母・政岡(まさおか)が自らの子を犠牲にして、悪人一派から幼い主君・鶴千代(つるちよ)を守る通称「御殿(ごてん)」、御殿の床下で警護をしていた荒獅子男之助(あらじしおとこのすけ)を鼠の妖術によって出し抜いた弾正が、悠然と去っていく通称「床下(ゆかした)」、弾正が細川勝元(ほそかわかつもと)による裁判に敗れ、抵抗の末に成敗される通称「対決(たいけつ)」・「刃傷(にんじょう)」などの各場面を中心に上演されます。
政岡は「御殿」の主役であり、「片はずし(かたはずし)」とよばれる御殿女中役の中でも大役とされています。また仁木弾正は、悪の色気を見せる「国崩し(くにくずし)」とよばれる敵役(かたきやく)の大役として有名です。
見どころ1
政岡の息子・千松(せんまつ)は、鶴千代を守るようにという母の日ごろの教えを守り、弾正一派の栄御前(さかえごぜん)が持参した、不審な菓子を真っ先に口にします。この菓子には、鶴千代を殺すための毒が仕込まれており、それを知られたくない八汐は、政岡の目の前でとっさに千松を刺し殺します。しかし政岡は、鶴千代を懐に抱いて守りながら動揺をまったく見せません。
政岡は、人々が去り1人になったとき初めて、千松を失った悲しみを露にします。政岡が「でかしゃった」と千松の忠義を褒めるこの場面は、「クドキ」とよばれる聞かせどころで、三味線に合わせて音楽的なせりふ回しとしぐさで心情を表現する見せどころです。
見どころ2
平成10(1998)年11月
国立劇場大劇場 第210回歌舞伎公演
『伽羅先代萩』「足利家床下の場」
仁木弾正:松本 幸四郎【9】(現:松本 白鸚【2】)
「床下」では、仁木弾正が「花道(はなみち)」の「セリ」に乗って登場します。この「セリ」は、特に「スッポン」とよばれ、忍術使い・妖怪・幽霊など非現実的な役の出入りに使用されます。弾正は、鼠の妖術を使うという設定であるため、この「スッポン」から登場します。このとき場内の照明は暗くなり、弾正は「差出し(さしだし)」[面明り(つらあかり)]とよばれる蝋燭(ろうそく)による古風な照明で照らされます。この照明は、弾正の怪しさをより際立たせる効果があります。