作品のあらまし
『歌舞伎十八番』の1つで、通称『助六』とよばれています。
曽我五郎時致(そがのごろうときむね)は、花川戸の助六(はなかわどのすけろく)という侠客となって、源氏の宝刀・友切丸(ともきりまる)を探し出すため吉原に出入りしています。三浦屋の傾城・揚巻(あげまき)と恋仲になった助六は、吉原で豪遊する意休(いきゅう)という老人が、この刀を持っていることを聞きだし、奪い返すというストーリーです。
2時間近い舞台には、助六に喧嘩の稽古をつけてもらう白酒売り[実は五郎の兄の曽我十郎(そがのじゅうろう)]、助六の喧嘩を戒めて紙衣(かみこ)を渡す母の満江(まんこう)、助六に喧嘩を吹っかけて返り討ちに合う意休の子分・くわんぺら門兵衛(かんぺらもんべえ)・朝顔仙平(あさがおせんぺい)など多彩な役が登場し、観客を飽きさせません。

『助六由縁江戸桜』
国立劇場所蔵(NA060470)
見どころ1
前半には、助六との仲を意休に責められた揚巻が、悪態(あくたい)[悪口]で言い返す場面があります。揚巻は、助六さんは立派な男ぶり、意休さんは意地の悪そうな顔つき。つまり例えると雪と墨ほど違う「くらがりで見ても助六さんと意休さんを取り違えてよいものかいなァ」と命がけで言い放ちます。
美貌と教養を兼ね備えた格式の高い傾城である揚巻は、女性の役を演じる俳優の最上位である「立女方(たておやま)」によって演じられるのが通例です。ここは、「立女方」の貫禄を示す重要な場面です。
見どころ2
助六の「花道(はなみち)」からの出には、紫の鉢巻の由来や助六の自己紹介が、節をつけた語りと三味線で演奏されます。それに合わせて、颯爽(さっそう)と舞踊のように演じるこのくだりは、助六を演じる俳優の最初の見せどころです。助六という役は、荒々しく豪快な「荒事(あらごと)」とやわらかく優美な「和事(わごと)」の要素を兼ね備えた役で、登場のし方にもこの役の性格がうかがえます。
なお、助六の登場で演奏される節をつけた語りは「河東節」といい、市川團十郎家(いちかわだんじゅうろうけ)の俳優が助六を演じるときに限って使用されます。