作品のあらまし
平安時代(8~12世紀)の貴族で政治家の菅原道真(すがわらのみちざね)が、藤原時平(ふじわらのしへい)の陰謀によって左遷(させん)された事件などに取材した「時代物」の「義太夫狂言」です。
流罪となった菅丞相(かんしょうじょう=菅原道真)が、伯母と娘に別れるときの奇跡を描いた通称「道明寺(どうみょうじ)」、三つ子の兄弟である梅王丸(うめおうまる)・桜丸(さくらまる)・松王丸(まつおうまる)が、敵味方に分かれて争う通称「車引(くるまびき)」、桜丸が、菅丞相流罪のきっかけを作った後悔から切腹する通称「賀の祝(がのいわい)」、松王丸が菅丞相の子・菅秀才(かんしゅうさい)を救うために自らの子を犠牲にする通称「寺子屋(てらこや)」などの場面を中心に上演されます。
『仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)』・『義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)』と並び、「義太夫狂言」の3大名作の1つとされています。
見どころ
手習いの師匠をしている武部源蔵(たけべげんぞう)は、以前、菅丞相に仕えていました。「寺子屋」には、源蔵が入門したばかりの子供の首を、菅秀才の身代わりとして検分役へ差し出す場面があります。検分役は差し出された首が本物かどうか、念入りに見極めようとします。この両者の緊迫感があふれるやりとりは、この作品の見せ場にもなっています。しかしその後、物語は身代りとなった子供が、検分役の松王丸の息子であったことが告白される意外な展開を見せます。
このような場面、もしくは切り首が本人のものであるかを検分する[見て確かめる]ことを「首実検(くびじっけん)」といいます。この作品以外にも、「首実検」の身代りが、ストーリー展開の鍵を握る「義太夫狂言」は多くあります。

『菅原伝授手習鑑』「寺子屋の場」
国立劇場(Y_E0100113000175)