作品のあらまし
作者は、白浪物(しらなみもの)[泥棒を主人公にした作品]を得意とした河竹黙阿弥(かわたけもくあみ)で、百両の金と庚申丸(こうしんまる)という刀によって、同じ吉三(きちさ)の名前を持つ3人の盗賊の身に降りかかる因果(いんが)を描いた作品です。
通常は『三人吉三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ)』のタイトルで、元は僧だった和尚吉三(おしょうきちさ)、女として育てられたため女装で登場するお嬢吉三(おじょうきちさ)、元旗本の御曹司・お坊吉三(おぼうきちさ)の3人が出会って、義兄弟となる「大川端の場(おおかわばたのば)」から、悪事のために追われる身となった3人が、雪の中で捕手に捕まる「本郷火之見櫓の場(ほんごうひのみやぐらのば)」までが上演されます。
見どころ1
平成13(2001)年12月
国立劇場大劇場 第227回歌舞伎公演
『三人吉三廓初買』「大川端庚申塚の場」
お嬢吉三:市川 染五郎【7】(現:松本 幸四郎【10】)
「大川端の場」は、節分の頃に設定されています。おとせという夜鷹から、百両の金を奪ったお嬢吉三は、杭に片足を置いてきまり、下のような名ぜりふを発します。
季節感あふれる言葉が散りばめられた七五調のせりふは、作者の黙阿弥の得意とするところで、俳優は歌い上げるようにこのせりふを言います。
見どころ2
「月も朧(おぼろ)に白魚の篝(かがり)も霞む春の空、冷てえ風も微酔(ほろよい)に心持よくうかうかと、浮かれ烏(うかれがらす)のただ一羽塒(ねぐら)へ帰る川端(かわばた)で、棹(さお)の雫(しずく)か濡手で粟、思いがけなく手に入(い)る百両、[御厄(おんやく)払いましょか、厄落し(やくおとし)、という厄払いの声]ほんに今夜は節分か、西の海より川の中、落ちた夜鷹(よたか)は厄落し、豆沢山(まめだくさん)に一文の銭と違って金包み、こいつぁ春から縁起がいいわえ」