作品のあらまし世話物という領域を確立した歴史的な名作
実際に起きた事件を脚色した、心中する男女の物語。語り手である竹本義太夫(たけもとぎだゆう)のために書かれたこの作品の大当たりによって、劇場である竹本座の経営が立ち直り、同時代の庶民の姿を描く「世話物」が新しい演目の領域として確立されることになる、記念碑的な名作です。
美しい文章で綴られた悲劇は、文学的にも高く評価されていますが、上演自体は二百数十年にわたって途絶えていました。20世紀半ばに一部が改作されて復活上演が行われ、現在へ引き継がれています。
恋仲である、遊女・お初(おはつ)と商家の使用人・徳兵衛(とくべえ)が出会う「生玉社前(いくだましゃぜん)の段」、二人が心中を決意する「天満屋(てんまや)の段」、二人が死に場所を求めて森へ向かう「天神森(てんじんのもり)の段」などが、よく上演されます。
見どころ「天満屋の段」裾に忍ばせた男とかわす死の決意
金をだまし取られた徳兵衛を、打ち掛けの裾に隠しながら、独り言のように心中の覚悟を問いかけるお初。その足首を自らの喉で撫でて、同意を示す徳兵衛。
人目を忍びながら、言葉を交わさずに心を伝え合う二人の真情を、舞台を茶屋とその縁の下とに分けた視覚的な効果でも印象づける場面です。
平成22年(2010年)2月5日~21日
国立劇場小劇場 第170回文楽公演
『曾根崎心中』天満屋の段
舞台映像おもな出演者
[太夫]
【8】豊竹 嶋太夫
[三味線]
【2】鶴澤 清友
[人形役割]
天満屋お初:【3】吉田 簑助
手代徳兵衛:【3】桐竹 勘十郎