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世阿弥の芸談をもとに息子の元能(もとよし)がまとめたもので、略して『申楽談儀』ともいいます。元能が1430年(永享2年)11月、出家する時に、世阿弥の教えをおろそかにしていなかった証拠として書きまとめたものです。書名の「世子」は世阿弥の敬称であり、60歳(1421または1422年)以後というと、世阿弥が出家した少し後からになります。ただし、元能の編集の手も加わっているので、60歳以降の世阿弥の芸談そのままというわけではありません。
内容は、先人や当時の役者の芸風・エピソード、音曲論、能の書き方や、演技・演出に関する論、能面や装束(しょうぞく)に関する記事、猿楽の故実、猿楽座や田楽(でんがく)の由緒、役者の心得など、様々です。具体的な記事に富んでおり、多くの能作品にもふれているので、能の歴史や、当時の能作品のありようを推測する上でも、きわめて貴重な記録となっています。
『世子六十以後申楽談儀』(法政大学能楽研究所所蔵)
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