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『翁』は天下泰平を祈る儀式的な曲で、新年や舞台開きなど祝賀の機会に演じられる演目です。様々な点で他の演目と異なる独特な様式を持ち、「能にして能にあらず」などとも形容されます。出演者全員が橋掛リから登場し、正面に向かって深々と礼をします。千歳(せんざい)がさっそうと舞い終わると、その間に舞台上で面をつけた翁が荘重な舞を舞います。続いて三番叟(さんばそう)が登場し掛け声を発しながら、また鈴を振りながら躍動的な舞を舞います。他の能演目とは異なり、地謡は囃子方の後ろに座ります。囃子も小鼓が3人出る変則的な編成で、3拍子のような特殊なリズムを刻みます。謡の文句は呪文のようで、これといったストーリー展開もありません。これらの特徴はみな、儀式の芸能であった猿楽の古い形態を残すものと言われ、『翁』は現在でも神聖な曲として特別視されています。
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