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能の作品を登場する役柄と曲趣によって5つに分ける分類法があり、「五番立」と呼ばれています。五番立がいつ頃どのように成立したのかはよくわかっていません。「江戸時代の正式の演能が翁の後に能を五番演ずるものだったから」という説明をよく耳にしますが、江戸幕府の公的な演能の記録を見ると、五番立に沿ったプログラムではありません。
むしろ演能形式以上に、五番立と関係があるのは謡本(うたいぼん)です。近世以降に作られた謡本のなかには、1冊に5曲ずつ収めるタイプがありますが、そこでは5曲が五番立の順に並んでいます。一般に五番立が浸透したことには、こうした謡本の影響が少なからずあったと考えられますが、この分類法が謡本から生まれたという確証はありません。
このように来歴もはっきりせず、あまり厳密な分類ではないものの、五番立にはとりあえず現行のすべての曲を入れることができるので、便利に使われています。現在では1日に5番の能を演ずることはほとんどありませんが、演能の順序を示すことより、その能がどんな曲趣の能かを示す指標として役立っています。
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