近世の三味線音楽は、歌いものと語りものの2つの系統に分けることができます。「歌いもの」は「メロディーを重視した叙情的な表現」、「語りもの」は「歌詞・内容を伝えることを重視した叙事的な表現」です。それぞれ、表現の目的と演奏の場が違うため、歌唱法にも違いが見られます。
「歌いもの」としては地歌、長唄、端唄、うた沢、小唄など、「語りもの」の代表は義太夫節で、加えて常磐津節、清元節で、浪花節などもこの系統です。この分類法は、催馬楽や箏曲などは「歌いもの」、平曲は「語りもの」というように、三味線以外の音楽に当てはめて考えることもできます。しかし実際には、「歌いもの」「語りもの」の両要素が混在することが多く、ある音楽のジャンルをいずれかに単純に分類できるものではありません。
時代の流れとともに「歌いもの」と「語りもの」の2系統はお互いに影響を受け、より多彩な表現が誕生します。例えば「語りもの」系統である豊後系の浄瑠璃は、歌うような傾向が強くなり、「歌いもの」である長唄の中にも語るような要素が取り入れられました。