アイヌの芸能

アイヌの文化あいぬのぶんか

 アイヌの人々が暮らすのは、太平洋と日本海に面した日本の北方の広大な大地です。山や森林、海や川など自然豊かで、また冬の寒さなど厳しくもある暮らしは、その自然の恵みである動物や魚、植物を採ることが中心となりました。

 このような自然と共存する暮らしから生まれたのが、木や草や動物、また人間が作った道具など、この世界の森羅万象(しんらばんしょう)にカムイ(神)が宿ると考える信仰でした。そして、動物や魚から肉や毛皮などを手に入れた時や、また道具が壊れた時などに、カムイを神の国に帰すための儀式“送り”を行いました。カムイへ感謝の意を伝えることで、ふたたびカムイが人間の世界に来てくれると信じていたのです。

 こうした信仰のもと、アイヌ独自の言葉であるアイヌ語、樹木や動物の毛皮や魚の皮などで作られた色鮮やかな衣服、語り継がれるユカラ(叙事詩:じょじし)、そして歌や踊など、アイヌの人々は生活の中からすぐれた独自の文化を生み出しました。

 アイヌの歌や踊は、自然界のすべてのものにカムイ(神)が宿るという信仰を持つアイヌ民族の、自然とともに生きる生活の中から生まれました。歌は短い歌詞や掛け声のような言葉などの旋律を繰り返し歌うのが特徴で、手拍子や行器(ほかい:儀礼で使用する食物を運ぶための容器。アイヌ語でシントコとよぶ)の蓋(ふた)をたたいて拍子をとります。踊はおもに、儀式などで踊られるもの、余興など楽しむために踊られるものなど、数多く伝わりますが、そのほとんどは女性がメインに踊るもので、男性だけの踊はごくわずかです。
 また種類は少ないものの、ムックリ(口琴:こうきん)やトンコリ(五弦琴)などの楽器もあります。

  • 座り歌
    数人が円座となって、手拍子や行器(ほかい:儀礼で使用する食物を運ぶための容器。アイヌ語でシントコとよぶ)の蓋(ふた)の縁を叩いて拍子をとりながら歌います。輪唱するように一定の間隔を置いてずらして追いかけて歌う(ウコウク)という歌い方が特徴です。
  • 輪踊
    踊り手が中心を向いて、輪になって歌いながら踊ります。歌うのは掛け声のようなもので、短いメロディを繰り返して歌います。
  • 動物の踊
    動物の鳴き声や仕草を真似て、歌い踊ります。ツルやクジラ、キツネ、ネズミ、バッタなどさまざまな動物の踊があります。こうした動物を題材にした踊が伝わっていることは、アイヌの芸能の大きな特徴です。
  • 労働の踊
    働く時に、その動作に合わせて歌う歌があります。その歌詞は、掛け声を中心に意味のある言葉を連ねています。近年ではこうした歌を芸能の演目として、穀物などを杵(きね)で搗(つ)く動作や酒を漉(こ)し、絞り、酒粕を配るまでの動作をともなって歌うようになっています。
  • 男性の踊
    男性が踊るものとして、弓矢や剣をもつ踊などがあります。獲物を探して山野を歩き、動物を射る狩人の踊や、魔を祓(はら)う踊などがあります。向かい合う二人が力強い足踏みや刀をぶつけ合う所作で魔を祓うといわれます。
  • 競いながら遊ぶ踊
    最後の1人になるまで激しい所作で踊り続ける根競べのような踊や、向かい合った2人が踊りながらお盆を投げて渡しあう踊、わなを仕掛ける人間と食べ物を取りたい鼠(ねずみ)役に分かれて競う踊など、競い合う要素を持つ踊もアイヌの芸能の特徴です。
  • 子守歌
    子供を寝かしつけたり、あやしたりする歌です。

公益社団法人北海道アイヌ協会提供
ムックリ
竹製の板状の楽器です。ムックリを口にあて、板にある弁の左右につけられた糸を引っ張ることで弁を振動させます。この振動を口の中で響かせることで、さまざまな音を出すことができます。
邊泥敏弘提供
トンコリ
アイヌに伝わる琴のような楽器です。ほとんどのものは五本の弦を張っていますが、まれに三弦や六弦のものなどもあります。かかえるよう持って、両手で弦をはじいて演奏します。弦は植物の繊維を固くよったものや、動物の腱などで、胴は一本の木をくり抜き、天板を張り合わせて作られています。

    ページの先頭に戻る