人形浄瑠璃 文楽 BUNRAKU

三味線:技を聴く

メリヤスを弾く

三味線は、物語の情景や人物の心情を表現するほか、「メリヤス」とよばれる音楽的な聞かせどころもあります。

メリヤス

舞台の雰囲気を表現するために、短い旋律を繰り返す演奏を「メリヤス」とよびます。太夫の語りや人形の動きなどに合わせ演奏時間を自在に調節できるところから、伸縮自在な布地のメリヤスにちなんだのが語源とされます。床(ゆか)の三味線弾きが弾く場合と、舞台の陰で別の三味線弾きが演奏する場合(その多くは複数の弾き手)とがあります。

「野崎村」の段切

土手を行く駕籠(かご)、駕籠かきが休んで手ぬぐいで汗をふく、川を舟が進む、そんな情景を、これまでの悲劇を振り払うかのように賑(にぎ)やかに演奏します。『新版歌祭文(しんぱんうたざいもん)』「野崎村(のざきむら)の段」より。

木登り

『ひらかな盛衰記(ひらがなせいすいき)』「逆櫓(さかろ)の段」の樋口(ひぐち)や、『絵本太功記(えほんたいこうき)』「尼ヶ崎(あまがさき)の段」の光秀(みつひで)などが木に登って物見をする場面などで演奏します。勇壮な動きを表現します。

はしごのぼり

『伊達娘恋緋鹿子(だてむすめこいのひがのこ)』「火の見櫓(ひのみやぐら)の段」で、娘・お七(おしち)が半鐘を鳴らそうと、降りしきる雪に滑りながらも懸命にはしごを登ろうとする場面などで演奏されます。

夏祭の長町裏

夏祭りの宵、非道の舅(しゅうと)をやむなく殺してしまい茫然とする団七(だんしち)と、徐々に近づいてくる祭囃子と御輿(みこし)の歓声。明るい旋律が絶望的な主人公の境遇を対照的にあぶりだします。太棹のほかに、細棹[「高音(たかね)」とよびます]が入ります。『夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)』「長町裏(ながまちうら)の段」より。

海岸に波が厳しく打ち寄せる様子を表し、小舟に乗って海を進んでいく場面などに演奏されます。

がく

『義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)』「渡海屋(とかいや)の段」で典侍の局(すけのつぼね)が安徳帝(あんとくてい)を玉座に導くところや、『国性爺合戦(こくせんやかっせん)』「甘輝館(かんきやかた)の段」で甘輝が登場するところなど、高貴なイメージの場面で演奏されます。

立回り
男の立回り

立回り(たちまわり:戦闘の場面)で演奏されます。

女の立回り

女性同士による立回りの時は、太棹のほかに、細棹[「高音」とよびます]が入ります。

かさや

『加賀見山旧錦絵(かがみやまこきょうのにしきえ)』「奥庭(おくにわ)の段」などでの、傘を使った立回りで演奏されるこのメリヤスは、特に「かさや」とよばれています。太棹のほかに、細棹[「高音」とよびます]が入ります。

茶筅酒

『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』「茶筅酒(ちゃせんざけ)の段」で3兄弟[梅王丸(うめおうまる)、松王丸(まつおうまる)、桜丸(さくらまる)]のそれぞれの妻たちが料理を作るために水をくんだり、野菜を刻んだり、米をといだりする場面に使われます。春ののどかな中に浮き立つような雰囲気が、のちの悲劇を引き立てます。

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