人形浄瑠璃 文楽 BUNRAKU

三味線:技を聴く

雰囲気を弾く

三味線弾きは、物語の内容をより効果的に伝えるため、その場の雰囲気を音で表現します。

『菅原伝授手習鑑
(すがわらでんじゅてならいかがみ)
「寺子屋(てらこや)の段」より

滑稽な場面を弾く

『菅原伝授手習鑑』寺子屋の段より

次は十五のよだれくり 「ぼんよぼんよ」 と親仁が手招き 「とゝよ、おりやもこゝから抱かれて去(い)の」 と甘える顔は馬顔で声きりぎりす 「ヲヽ泣くな。抱いてやらう」 と干鮭(からざけ)を、猫なで親が食はへ行く 「私が倅(せがれ)は器量よし。お見違へくださるな」 と断り言うて呼び出だすは色白々と瓜実顔(うりざねがお) 「こいつ胡乱(うろん)」 と引つ捕らへ、見れば首筋真つ黒々。墨かあざかは知らねども 「こいつでない」 と突き放す そのほか山家奥在所の子供残らず呼び出して、見せても見せても似ぬこそ道理。土が産ました量り芋、子ばかりよつて立ち帰る

菅丞相(かんしょうじょう:菅原道真[すがわらのみちざね])の子・菅秀才(かんしゅうさい)を探している春藤玄蕃(しゅんどうげんば)は、武部源蔵(たけべげんぞう)の寺子屋で学ぶ子供たちの中にいないか調べています。ここでは15才になっても寺子屋に通う「よだれくり」と、その父親のやり取りを描いています。

緊張感のある場面を弾く

『菅原伝授手習鑑』寺子屋の段より

『畏(かしこ)まつた』と捕手の人数十手振つて立ちかゝる /女房戸浪も身を堅め /夫は元より一生懸命 「サア実検せよ検分」 と言ふ一言も命がけ、/後ろは捕手/向かふは曲者(くせもの)/玄蕃は始終眼を配り/『こゝぞ絶体絶命』と思ふ内 /早や首桶引き寄せ、蓋(ふた)引き開けた/首は小太郎/『贋(にせ)と言うたら一討ち』と早や抜きかける /戸浪は祈願『天道様、仏神様、憐(あわ)れみ給へ』と女の念力

登場人物の弾き分けを「/」で示しています。

かくまっている菅丞相の子・菅秀才の首を出すよう命じられた源蔵夫婦は、身代りの首を差し出しました。首実検(くびじっけん:首が本人であるか確認すること)をする松王丸(まつおうまる)が、審判をくだす場面です。ここでは、太夫と三味線がそれぞれの絡み合う心情を語り分け、また弾き分けて表現することで、より緊張感が増しています。

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