三味線弾きは、観客に物語を伝えるために、さまざまに工夫しながら演奏しています。
構え
正座をしているように見えますが、体をしっかりと支えるために足を開いて尻を着けて座っています。座った右の太ももの上に乗せた三味線の胴を、撥(ばち)を持った右腕で支え、左手で棹の部分を持ちます。
撥
撥の持ち方
撥の使い方
義太夫節の演奏で使用する撥は象牙(ぞうげ)製で、長唄の撥などに比べ、長く厚みがあるのが特徴です。親指を側面の角に当て、反対の側面を人差し指で支え、中指・薬指は撥を巻くように、小指は撥を挟むようにして持ちます。また手が滑らないように撥には和紙を巻き付けたりしています。力の入れ具合によって、さまざまな表現をすることができます。
48のツボ
ツボは左手の指で弦を押さえるポイントのことをいいます。三味線には48のツボがあり、「い・ろ・は…」で表されますが、中には名前がついているものもあります。例えばその音色の特性から、沈んだ心を表現するのが「ウレイ」[「た」のツボ]、上品な感じを表現するのが「ギン」[「つ」のツボ]、不気味な感じを表現するのが「コワリ」[「と」のツボ]などがあります。
同じツボでも、弾き方を変えることによって、「ハッとする」「怒る」「悲しむ」など、さまざまな感情や情景を表現することができます。
記譜法「朱」

丸本(七行本)・稽古本(五行本)に、朱が書き込まれています。
左:丸本『菅原伝授手習鑑』 右:稽古本『冥途の飛脚』淡路町の段
鶴澤藤蔵[1]旧蔵 鶴澤藤蔵[2]所蔵
全てを暗譜する三味線弾きは、太夫の床本(ゆかほん)のように舞台に本を持って上がることはありません。しかし、三味線弾きにも心覚えのためにツボを記した本があり、その記譜法を「朱(しゅ)」とよびます。

手書きのノートに書き込まれた朱
『心中天網島』天満屋紙屋内の段
鶴澤藤蔵[2]所蔵
48文字で表す三味線のツボは、天明の頃(1781〜1789年)、初代・鶴澤清七(つるざわせいしち)が考案したと言われています。ただし、「朱」はツボを示すだけなので、テンポや強弱などのニュアンスは、舞台を聞いて耳で覚え、稽古を通して身につけていきます。
コラム胡弓・琴・八雲
三味線弾きは、三味線の音で物語の雰囲気や情景、登場人物の心情を表現しています。作品によっては、胡弓(こきゅう)・琴(こと)・八雲(やくも:2本絃の琴)などの他の楽器の演奏を合せることでより効果的な演奏をすることがあります。これらの楽器を演奏するのも三味線弾きで、多くは若手の三味線弾きが演奏します。