客席から舞台を正面に見て、右側を上手(かみて)、左側を下手(しもて)といいます。
客席の正面は、大道具を立てて人形が演じる場所です。上手前方に客席まで張り出しているのは、「床(ゆか)」とよばれ、太夫(たゆう)と三味線弾き(しゃみせんひき)が義太夫節(ぎだゆうぶし)を演奏する場所です。
『絵本太功記』尼ヶ崎の段
平成25年(2013)6月
国立文楽劇場 第30回文楽鑑賞教室公演(YRD0200030500096)
客席から舞台を正面に見て、右側を上手(かみて)、左側を下手(しもて)といいます。
客席の正面は、大道具を立てて人形が演じる場所です。上手前方に客席まで張り出しているのは、「床(ゆか)」とよばれ、太夫(たゆう)と三味線弾き(しゃみせんひき)が義太夫節(ぎだゆうぶし)を演奏する場所です。
『絵本太功記』尼ヶ崎の段
平成27年(2015)4月
国立文楽劇場 第138回文楽公演
写真:青木信二
文楽の舞台は、観客が浄瑠璃の世界に入りやすいように、工夫が凝らされています。床が客席に張り出しているのは、観客に近いところで演奏して聞きやすくするためですが、正面の舞台でも人形が見やすくなるようにもさまざまな工夫が凝らされています。
太夫と三味線弾きが義太夫節を演奏する「床」には、「盆回し(ぼんまわし)」とよばれるしかけがあります。直径9尺(約2m70cm)の「盆」とよばれる円と盆を半分に仕切る衝立(ついたて)があり、太夫と三味線弾きは衝立の裏側に座ります。衝立は、片面が金色、もう片面が銀色になっています。出番となると太夫の合図で「床世話(ゆかせわ:太夫と三味線弾きの演奏の世話をする人)」が盆をくるりと回して、座ったまま2人を舞台へと送り出します。
大阪・国立文楽劇場では床の上、東京・国立劇場では舞台上手の小幕(こまく:舞台の上手と下手にある人形の舞台への出入口)の上に、簾(すだれ)がかかっている小さな部屋があります。これを御簾内(みすうち)といい、若手の太夫・三味線弾きが、床に出ずに演奏するときに使います。
文楽では、太夫と三味線弾きが義太夫節で表現する浄瑠璃の世界を、人形が視覚的に表現します。この人形の表現を手助けするのが大道具(おおどうぐ)で、お屋敷や民家などの建物から、山並みや海などの背景まで、人形が表現する場面を舞台の中に作り上げます。人形の大きさに合わせて大道具を作るので、人間が演じる歌舞伎などの舞台より小ぶりに作られています。
文楽の舞台の、一段低くなっている部分を「船底(ふなぞこ)」といいます。主遣い(おもづかい)は、足遣い(あしづかい)が動きやすいように、舞台下駄(ぶたいげた)とよばれる高下駄を履き、人形を差し上げて遣うので、平らな舞台では観客が見上げて鑑賞することになり、見にくくなってしまいます。そこで少しでも観客の目線を下げて見やすくするために、舞台の一部を掘り下げています。これを「船底」といい、1尺2寸(約36cm)ほど低くなっています。船の底の部分のようなので、船底とよばれています。
舞台の中で、人形にとって地面の位置にあたる仕切り板を「手摺(てすり)」とよびます。船底から手摺までの高さは2尺8寸(約84cm)。舞台下駄を履いた主遣いが人形を差し上げて遣うと、客席からはちょうど人形が地面や畳などの上に立っているように見えます。船底の奥に屋体(やたい:建物に見立てた装置)など大道具を立てたときには、その前面の部分を本手摺(ほんてすり)とよんでいます。
説明スポットをクリックするとテキストが表示されます。
床
太夫と三味線弾きが演奏する場所
小幕
人形が舞台へ出入りする幕
御簾内(上手)みすうち
若手の太夫・三味線弾きが床に出ずに演奏する場所
大道具
背景や建物などの舞台装置
小幕
人形が舞台へ出入りする幕
御簾内(下手)みすうち
囃子方が演奏する場所
手摺
人形にとって地面の位置にあたる板
船底
人形遣いが演じる場所
床
太夫と三味線弾きが演奏する場所
小幕
人形が舞台へ出入りする幕
御簾内(上手)みすうち
若手の太夫・三味線弾きが床に出ずに演奏する場所
大道具
背景や建物などの舞台装置
小幕
人形が舞台へ出入りする幕
御簾内(下手)みすうち
囃子方が演奏する場所
手摺
人形にとって地面の位置にあたる板
船底
人形遣いが演じる場所
足し床たしゆか
演奏する太夫が多く床に座りきれない時に、継ぎ足す床
コラム道具帳
『絵本太功記』尼ヶ崎の段
平成25年(2013)6月
国立文楽劇場 第30回文楽鑑賞教室公演
美術:豊住ゆかり
大道具をつくるためのデザイン画を「道具帳(どうぐちょう)」といい、実際の大きさに対して、約40分の1の縮尺で描かれます。この「道具帳」のデザインや色彩を出演者などと確認したのち、「道具帳」にもとづいて図面が引かれ、背景画を含めた大道具が作られていきます。
コラム「両床」と「出床」
『仮名手本忠臣蔵』祇園一力茶屋の段
平成28年(2016)12月
国立劇場小劇場 第197回文楽公演(Y_D0100197501235)
文楽の舞台では、通常、舞台上手の「床」で演奏しますが、演目によっては別の場所でも演奏することがあります。例えば、『妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)』「妹山背山(いもやませやま)の段」では、客席下手にも床を作り、上手・下手の床から義太夫節を演奏する「両床(りょうゆか)」となります。また『仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)』「祇園一力茶屋(ぎおんいちりきぢゃや)の段」では、平右衛門(へいえもん)役の太夫だけが舞台下手の「出床(でゆか)」で、無本(床本なし)で語ります。