化粧の役割
歌舞伎の化粧には、いくつかの定型があり、その役の性格や身分などを示す役割を持っています。観客は、登場した人物の基本的な設定を、その外見からつかむことができるわけです。俳優は、まず自分自身で、顔全体を一つの色で塗りつぶします。たとえば、白色は善人や高貴な人物を、茶に近い肌色は町人や悪人を、そして、赤色は悪人の手下や家来を表しています。そうした地色を塗ったうえに、眉(まゆ)、目元、口紅(くちべに)、頬紅(ほおべに)、髭(ひげ)などを、赤や黒・青などの鮮やかな色を用いて描きながら、その役の気持ちに入っていくのです。こうして化粧を施すことを、「顔をする」といいます。
隈取とは
鮮やかな色彩の化粧のなかでも、ひときわ強い印象を与えるのが「隈取」です。地色を塗った顔に、筆で線を引き、指で片側へぼかす化粧法で、「描く」のではなく、隈を「取る」といいます。「隈」は光と陰(かげ)の境目を意味し、血管や筋肉などを大げさに表現したものです。大胆で力強い「荒事(あらごと)」という様式を生み出した、初代市川團十郎(いちかわだんじゅうろう)によって始められたともいわれています。隈に用いる色にも、それぞれ意味があります。赤い紅隈(べにぐま)は、正義感や勇気、血気盛んな若さなど、青い藍隈(あいぐま)はスケールの大きな悪人や怨霊(おんりょう)などを、茶色い茶隈(ちゃぐま)は鬼や精霊などを表わします。そして、色だけでなく、隈の構図にもさまざまな種類があります。

『菅原伝授手習鑑』
舎人梅王丸:中村 萬太郎
国立劇場(Y_E0100289500536)

『菅原伝授手習鑑』
左大臣藤原時平:坂東 秀調【5】
国立劇場(Y_E0100289500074)