人気のキャラクターが活躍する、たくさんの演目。それらの台本は、劇場に所属する作者によって、演じる俳優それぞれの個性を活かして作られました。
- 初代 市川團十郎
(いちかわだんじゅうろう) - 初代 坂田藤十郎
(さかたとうじゅうろう) - 初代 芳沢あやめ
(よしざわあやめ) - 近松門左衛門
(ちかまつもんざえもん) - 鶴屋南北
(つるやなんぼく) - 河竹黙阿弥
(かわたけもくあみ)
荒事(あらごと)を生み、台本も書いた江戸の人気俳優
初代 市川團十郎 いちかわだんじゅうろう
歌舞伎が演劇として完成される、元禄年間(17世紀後半〜18世紀初め)。江戸の歌舞伎を代表する俳優であるとともに、自ら三升屋兵庫(みますやひょうご)の名で台本も書いて、力強く豪快な、荒事という歌舞伎の表現様式を確立させたのが、初代市川團十郎です。荒々しい演技や扮装によって、信仰に近いほどの人気を集め、怪力をふるって悪者を倒す正義の勇者、というキャラクターを生み出しました。

『市川団十郎の竹抜五郎図』
鳥居清倍 画
東京国立博物館所蔵
Image: TNM Image Archives
演技を磨き、和事(わごと)を完成させた京・大阪の人気俳優
初代 坂田藤十郎 さかたとうじゅうろう
江戸で荒事が人気となった元禄年間。文化や芸術の中心地であった京や大坂では、優美に洗練された、和事という歌舞伎の表現様式が好まれました。写実的で繊細な演技によって、高い身分であったのに理由があって落ちぶれた色男、というキャラクターを完成させたのが、初代坂田藤十郎です。柔らかく自然な演技を磨き、台詞による表現も巧みでした。

『野郎関相撲』
東京都立中央図書館加賀文庫所蔵(加6013-2/加06013-002)
女方(おんながた)の芸を確立し、坂田藤十郎とともに活躍した人気俳優
初代 芳沢あやめ よしざわあやめ
初代坂田藤十郎の相手役を何度もつとめ、和事の演出における女方の技芸を確立したのが、初代芳沢あやめです。高い品位と教養と美ぼうを持った最上級の遊女である傾城(けいせい)、というキャラクターを完成させました。女性の役を自然で写実的に演じるためには、日常の暮らし方や動作においても女性として生きる心がけが大切である、という姿勢で、観客だけでなく、共演する俳優たちに与える印象にまで、配慮を徹底しています。

『野郎関相撲』
東京都立中央図書館加賀文庫所蔵(加6013-1/加06013-001)
歌舞伎と人形浄瑠璃(にんぎょうじょうるり)の両方で、多くの名作を書いた作者
近松門左衛門 ちかまつもんざえもん
俳優と兼ねるのではなく、台本を書くことを専門とした初めての作者が、近松門左衛門です。初代坂田藤十郎のために、多くの歌舞伎の台本を書き、和事のキャラクターの成立を支えました。実際の心中事件からひと月後に『曽根崎心中(そねざきしんじゅう)』を上演し大ヒットさせてからは、人形浄瑠璃の作者に専念し、時代物(じだいもの:江戸時代より前の時代を描いた作品)、と世話物(せわもの:江戸時代の出来事を描いた作品。当時の現代劇)の両方で多くの名作を残しました。それらの作品の多くは、歌舞伎へも移され、人気の演目となっています。

『難波土産』
国立劇場所蔵
社会の現実を、奇想天外な表現で刺激的に描いた作者
4代目 鶴屋南北 つるやなんぼく
江戸を中心とした町人の文化が栄える一方、人々のモラルが乱れ犯罪が横行した、文化・文政年間(19世紀前半)。社会の底辺に生きる人々の姿をリアルに描く、生世話(きぜわ)という分野を確立した作者が、4代目鶴屋南北です。怪奇や犯罪、笑いや色気などに満ちた複雑な物語を、衣裳の早変わりや仕掛けに富んだ舞台装置など、奇抜なアイデアで演出して、観客を驚かせました。さまざまな種類の悪人や、亡霊や怪物など、印象の強いキャラクターを、数多く生み出しました。

『市村座三階ノ図』
国立劇場所蔵(NA0072126000)
目や耳を楽しませる美しい舞台で、庶民の姿を描いた作者


