役柄の誕生
成人した男性だけで演じられることになった歌舞伎は、演劇としての性格を強めます。見た目の美しさやショーのような楽しさよりも、演じる者の芸や演出が求められていきました。筋書きも複雑になり、さまざまな年代の男女が登場したり、敵や味方に分かれたりするなか、観客が内容をつかみやすいよう、類型的な役柄がつくられていったのです。また、女性の役を演じる「女方(おんながた)」という俳優の役割も、しだいに確立されていきました。

女方の4代目岩井半四郎が演じた7つの役が1枚に描かれている
『七襲東雛形』勝川春英 画
国立劇場所蔵(NA100010)
荒っぽい英雄と優美な色男
新しい文化が次々と生まれた、元禄年間(17世紀後半〜18世紀初め)。歌舞伎も大きく発展し、東西で対照的な役柄が登場します。武士が多く、荒々しい活気があふれる都市であった江戶では、大胆で力強い「荒事(あらごと)」という表現が生まれました。超人的な力で悪者たちを懲らしめる英雄が、派手な化粧や衣裳、誇張した動きや形によって演じられ、たいへんな人気となりました。他方、洗練された都市であった京や大坂では、時代の風俗を映す、写実的でやわらかな「和事(わごと)」という表現が生まれました。高い身分を持ちながら、今はみすぼらしく身をやつす色男が恋人の遊女を訪ねる様子が、優美で繊細に演じられ、評判を集めました。

2代目市川團十郎が荒事で演じる曽我五郎
鳥居清長 画
メトロポリタン美術館所蔵(JP564)