宮中で行われる『御神楽(みかぐら)』は組曲の形式をもち、その進行を担う人長(にんじょう)によって舞われる曲が『人長舞』です。一般の神社の祭りなどで奏される『神楽(かぐら)』(里神楽(さとかぐら)ともいう)と区別して、御神楽と称されています。
その由来は、天岩戸の前で天宇受売命(あめのうずめのみこと)が舞った神話(注)になぞらえているともいわれています。
一定の形式が整えられたのは、長保4(1002)年、宮中の内侍所(ないしどころ)で奏されたときからと伝えられ、白河天皇(しらかわてんのう:在位1073~87年)の時代から毎年行われるようになりました。
御神楽は「本役(神迎え)」、「中役(神遊び)」、「後役(神送り)」の3つで構成され、15の曲からなる組曲です。うち「早韓神(はやからかみ)」、「其駒(そのこま)」の曲にのみ、人長舞が行われます。
伴奏の楽器には神楽笛(かぐらぶえ)、篳篥(ひちりき)、和琴(わごん)が用いられます。
演奏者は衣冠(いかん)という、ゆったりとした裾(きょ:すそのこと)のない装束を着用します。一方、人長は平安貴族の正装として用いられた束帯(そくたい)で、上に白い袍(ほう)を羽織り、裾をひいています。頭には巻纓(けんえい:後部に付けられた纓を巻いた形)の冠をかぶり、腰に剣を下げ、手には白い輪を吊るした榊(さかき)の枝を持って舞います。
古くから儀礼にともなって奏されてきた神聖さが感じられる歌舞です。特に「其駒」は御神楽の儀式の最後に行われる曲で、なごりを惜しみつつ神々を見送る、一番の盛り上がりを見せる場面です。歌方の清らかな声が響くなか、人長の厳かな舞が奏されます。
宮中で行われる『御神楽』は、夕刻から深夜にかけて行われる長大なもので一般に公開されることはありませんが、神奈川県の鶴岡八幡宮、京都府の伏見稲荷大社などで奉奏される『人長舞』は公開されています。