左舞では、1つの楽曲がいくつかの楽章によって構成され、楽章ごとに別個の音楽が奏されます。また、伴奏を行うのは管楽器と打楽器のみで、原則として絃楽器は用いません。管楽器に笙(しょう)を含むことで、柔らかな音楽を響かせます。
左舞の楽曲は、中心となる「当曲(とうきょく)」の前後に、舞台へ登るための「登場・出手(でるて)」と、降りるための「入手(いるて)・退場」が奏されるかたちで構成され、それぞれに独立した音楽が用意されています。
さらに、当曲と同じ調子による「前奏」の曲が、まだ舞人が楽屋にいるあいだに始められたり、舞台へ登って当曲が始まる前に挿入されたりする演目も多くあります。音合わせを行ったり、当曲への期待を盛り上げたりする役割を果たしているのです。
左舞の唐楽は、3つの管楽器と3つの打楽器で奏されます。
管楽器[吹物(ふきもの)とも]には、笙(しょう)、龍笛(りゅうてき)、篳篥(ひちりき)が、打楽器[打物(うちもの)とも]には、鞨鼓(かっこ)、太鼓、鉦鼓(しょうこ)が用いられます。
右舞における高麗楽(こまがく)と比べると、唐楽では笙が用いられることや、高麗笛(こまぶえ)ではなく龍笛が、三ノ鼓(さんのつづみ)ではなく鞨鼓が用いられることなどに、違いがあります。
とくに、笙の存在は、左舞の音楽を大きく特徴づけています。笙が切れ目なく奏でる和音が、龍笛や篳篥が受け持つ旋律を包み込んで、華やかでふわりとした輪郭の音楽が生まれるのです。また、鞨鼓で多用される、細かい連打の奏法[トレモロ]も、唐楽の響きをいっそう柔らかいものにしています。
舞楽の楽器編成
左舞 | 唐楽 | 管楽器 | 笙、龍笛、篳篥 |
---|---|---|---|
打楽器 | 鞨鼓、太鼓、鉦鼓 | ||
右舞 | 高麗楽 | 管楽器 | 高麗笛、篳篥 |
打楽器 | 三ノ鼓、太鼓、鉦鼓 |
(注)右舞に属する『陪臚(ばいろ)』『還城楽(げんじょうらく)』『抜頭(ばとう)』は例外的に唐楽を用いる。