塩谷判官(えんやはんがん)から手渡された返歌に、顔世御前(かおよごぜん)の拒絶を読み取った高師直(こうのもろのう)は、判官につらく当たり、悪口雑言(あっこうぞうごん)はエスカレートします。「サ鮒(ふな)めが…鮒よ、鮒よ、鮒だ、鮒だ、鮒武士(さむらい)だ」刀の柄(つか)に手をかける判官に「殿中だ」と一言。このセリフは、実は浄瑠璃本文にはありません。判官を「鮒」に例えてあざける詞はありますが、広く知られたセリフだけに、現行文楽でも取り入れています。その後の師直の大笑いは、文楽独特のもので、師直の憎々しさ、役の大きさを表します。