


![幕切れの下座音楽 祭りの賑わいが最高潮に達したなか、 祭りの喧噪[だんじり囃子]にまぎれ、 団七は 逃げ去っていく](img/sound_2_2.jpg)

人形浄瑠璃や歌舞伎では、芝居を盛り上げるための「下座音楽」が欠かせません。『夏祭浪花鑑』では、「だんじり囃子[高津神社の祭囃子の設定]」が、印象に残るのではないでしょうか。この「だんじり囃子」は「囃子方」が担当しています。義太夫節は、太夫三味線が情景などすべてを表現するので、囃子方は補助的役割となりますが、その表現は豊かです。戦の遠寄せは、大太鼓・鑼(どら)・法螺貝(ほらがい)。雨音は太鼓。大太鼓による雪音、千鳥・鶯・蛙の鳴き声や、谺(こだま)まで表現します。
人形浄瑠璃『夏祭浪花鑑』の「だんじり囃子」は、 人形遣い・2代目桐竹勘十郎(きりたけかんじゅうろう)と、囃子方・望月太明藏社中(もちづきためぞうしゃちゅう)が、昔の「附(つけ:古典曲を演奏するときに使用する譜面)」を元に、演奏[打ち方]を復活工夫しました。大太鼓と、双盤(そうばん:鉦[かね]の一種)を使用し、基本は「チキチン チキチン チキチン ガンガン」という同じリズムの繰り返しですが、太夫や三味線の邪魔になってはいけません。小さな音量でゆっくり演奏したり、立ち廻りの場面では荒々しく演奏するなど、緩急自在に舞台効果を高めます。
上方の下座音楽と江戸の下座音楽では、楽器の奏法や囃子などの選択が異なるといいます。人形浄瑠璃を歌舞伎化した『夏祭浪花鑑』でも、昨今、人形浄瑠璃で使う「だんじり囃子」を使用しない場合が多くなってしまったようです。上方特有の囃子を味わえるのも、『夏祭浪花鑑』を鑑賞する楽しみのひとつといってよいでしょう。