【通称】河内山(こうちやま)、直侍(なおざむらい)
【初演年】明治14年(1881年)3月
【初演座】新富座
【ジャンル】世話物
【おもな配役】
9代目市川團十郎(いちかわだんじゅうろう、44歳)が河内山宗俊(こうちやまそうしゅん)、5代目尾上菊五郎(おのえきくごろう、38歳)が片岡直次郎(かたおかなおじろう)、8代目岩井半四郎(いわいはんしろう、53 歳)が三千歳(みちとせ)、5代目市川小團次(いちかわこだんじ、32歳)が暗闇の丑松(くらやみのうしまつ)、初代市川左團次(いちかわさだんじ、40歳)が金子市之丞(かねこいちのじょう)に扮しました。
2代目河竹新七(かわたけしんしち)こと黙阿弥が66歳のときの作品です。
黙阿弥は、御数寄屋坊主(おすきやぼうず:江戸城中で将軍や幕府の諸役人に茶を出すなどの役を勤める職)の河内山宗春(こうちやまそうしゅん)とその弟分の御家人(ごけにん)・片岡直次郎、直次郎の馴染みの遊女・三千歳など6人の悪党を描いた、2代目松林伯円(しょうりんはくえん)の講釈(こうしゃく:近代以降[講談(こうだん)])『天保六花撰(てんぽうろっかせん)』を題材にして、明治7年(1874年)に『雲上野三衣策前(くものうえのさんえのさくまえ)』として脚色、河原崎座で上演しました。河内山が上野輪王寺宮(うえのりんのうじのみや)の使いと偽って、松江出雲守(まつえいずものかみ)の屋敷から上州屋(じょうしゅうや)の娘を取り戻すエピソードのみを書いた作品です。
この先行作に、さらに直次郎と三千歳の情愛の筋と金子市之丞との確執などの筋を新たに加え、7幕の長編へ改作したのが本作『天衣紛上野初花』になります。黙阿弥も「極(ごく)大入」と記す大評判を取りました。
現在では、河内山のゆすりと三千歳と直侍の筋「入谷蕎麦屋の場」と「大口屋寮の場」がそれぞれ単独で上演されることも多く、その場合には『雪暮夜入谷畦道(ゆきのゆうべいりやのあぜみち)』の題で上演されています。