本作は明治期(1868年~1912年)に作られたものですが、全体を通して幕末期の江戸下町の風物や生活を活き活きと描写しています。特に「富吉町新三内(とみよしちょうしんざうち)の場」での初鰹(はつがつお)売りの場面は、江戸の町に初夏の到来を告げていた季節感を見事にあらわしていると言えます。貧乏人の髪結新三(かみゆいしんざ)が意地を張って初鰹を買うところや、その鰹をめぐる家主(いえぬし)の長兵衛(ちょうべえ)との掛け合いの様子は、下町の江戸っ子情緒を色濃く再現し、この作品の見せ場となっています。
悪党でありながらもどこか憎めない新三の役は、初演時の5代目尾上菊五郎(おのえきくごろう)から、6代目尾上菊五郎や15代目市村羽左衛門(いちむらうざえもん)、2代目尾上松緑(おのえしょうろく)や17代目中村勘三郞(なかむらかんざぶろう)へと続き、現在は7代目尾上菊五郎と18代目中村勘三郞に引き継がれています。
舞台映像おもな出演者
「永代橋川端の場」
髪結新三:[5]中村勘九郎(現[18]中村勘三郎)
白子屋手代忠七:[3]中村橋之助
「富吉町新三内の場」
髪結新三:[5]中村勘九郎(現[18]中村勘三郎)
下剃勝奴:[6]片岡十蔵(現[6]片岡市蔵)
肴売新吉:[4]中村助五郎([2]中村源左衛門)
合長屋権兵衛:尾上辰夫(現 吉川明良)
「元の新三内の場」
髪結新三:[5]中村勘九郎(現[18]中村勘三郎)
家主長兵衛:[2]中村又五郎
下剃勝奴:[6]片岡十蔵(現[6]片岡市蔵)