【通称】白浪五人男(しらなみごにんおとこ)、弁天小僧(べんてんこぞう)
【初演年】文久2年(1862年)3月
【初演座】市村座
【ジャンル】世話物
【おもな配役】
13代目市村羽左衛門(いちむらうざえもん、19歳:のちの5代目尾上菊五郎[おのえきくごろう])が弁天小僧菊之助(べんてんこぞうきくのすけ)、3代目関三十郎(せきさんじゅうろう、58歳)が日本駄右衛門(にほんだえもん)、4代目中村芝翫(なかむらしかん、32歳)が南郷力丸(なんごうりきまる)、3代目岩井粂三郎(いわいくめさぶろう、34歳:のちの8代目岩井半四郎[いわいはんしろう])が赤星十三郎(あかぼしじゅうざぶろう)、初代河原崎権十郎(かわらざきごんじゅうろう、25歳:のちの9代目市川團十郎[いちかわだんじゅうろう])が忠信利平(ただのぶりへい)に扮しました。
2代目河竹新七(かわたけしんしち)こと黙阿弥が47歳のときの作品です。
振袖姿の弁天小僧が、刺青(いれずみ)を見せて盗賊の正体を表す「浜松屋(はままつや)の場」と、五人男が土手に並んでツラネ[花道などで述べる長ゼリフ]を述べる「稲瀬川勢揃(いなせがわせいぞろい)の場」は、歌舞伎屈指(くっし)の名場面として知られています。本来は全5幕9場の長編ですが、近代以降この2場を中心に上演が重ねられてきました。通し上演以外の名題は『弁天娘女男白浪(べんてんむすめめおのしらなみ)』とするのが一般的です。
黙阿弥が、3代目歌川豊国(うたがわとよくに)の描いた女装の盗賊の錦絵をもとに構想したと伝えられています。成立に錦絵が関係していることが象徴するように、動く錦絵を見るかのような美しい場面の連続です。また、「知らざあ言ってきかせやしょう」に代表される七五調(しちごちょう)のセリフも本作の魅力です。物語は、御家騒動を背景にして因果譚(いんがたん)の様相を帯びていますが、あくまでも視聴覚美を中心とした様式美を堪能する作品といえるでしょう。
のちの5代目菊五郎が若干19歳で主演し、弁天小僧は生涯に6度も演じる当り役となりました。その江戸っ子らしいさわやかな芸風を反映し、6代目尾上菊五郎や15代目市村羽左衛門らを経て、当代の7代目尾上菊五郎、18代目中村勘三郎(なかむらかんざぶろう)、5代目尾上菊之助(おのえきくのすけ)らに受継がれています。