【通称】十六夜清心(いざよいせいしん)
【初演年】安政6年(1859年)2月
【初演座】市村座
【ジャンル】世話物
【おもな配役】
4代目市川小團次(いちかわこだんじ、48歳)は清心(せいしん)のちに鬼薊清吉(おにあざみせいきち)、3代目岩井粂三郎(いわいくめさぶろう、31歳:のちの8代目岩井半四郎[いわいはんしろう])は十六夜(いざよい)のちにおさよ、3代目関三十郎(せきさんじゅうろう、55歳)は白蓮(はくれん)実は大寺正兵衛(おおでらしょうべえ)、13代目市村羽左衛門(いちむらうざえもん、16歳:のちの5代目尾上菊五郎[おのえきくごろう])は求女(もとめ)に扮しました。
2代目河竹新七(かわたけしんしち)こと黙阿弥が44歳のときの作品です。
文化2年(1805年)に小塚原で処刑された鬼坊主清吉(おにぼうずせいきち)をモデルとして、これに安政2年(1855年)に浪人・藤岡藤十郎(ふじおかとうじゅうろう)と無宿の富蔵が江戸城の御金蔵(ごきんぞう)を破り4千両を盗んだ事件と、上野寛永寺の僧と遊女の心中事件を題材として取り込んでいます。全体の筋としては、講釈(こうしゃく:近代以降[講談(こうだん)])で知られた八重垣紋三(やえがきもんざ)を御家騒動物に仕組んでいますが、本筋とほとんど関係がないので、現行の上演においては紋三の筋はカットされています。
清元(きよもと)の道行浄瑠璃(みちゆきじょうるり)を最初にもってきて、清心と十六夜の心中場面を見せる構成の奇抜さ、清心と求女の七五調(しちごちょう)の割台詞(わりぜりふ)、清心が悪の道に生きることを決心するところで騒ぎ唄(さわぎうた:賑やかな音楽)を聞かせるアイデアなど、作者の技巧が光ります。江戸幕末頽廃期(たいはいき)の世相を映し出した白浪物(しらなみもの)の生世話(きぜわ)狂言の代表作として、現在も人気のある作品です。