本作は藤岡藤十郎(ふじおかとうじゅうろう)の御金蔵破り(ごきんぞうやぶり)を当て込んで書かれました。大盗賊・大寺正兵衛(おおでらしょうべえ)は藤十郎をモデルにしています。当然、登場人物名も時代背景も替えているのですが、幕府から干渉があり、大当りにもかかわらず35日で上演禁止になったといわれています。
『続歌舞妓年代記(ぞくかぶきねんだいき)』には「第二番目鬼坊主新狂言大出来大当り、然る処故障有之(これあり)、狂言中所々添削ありて狂言の筋訳わからず依之(これにより)第一番目三幕と大切浄るりの場を残し」とあります。「故障」というのが幕府からの干渉です。筋の訳がわからなくなるほど「添削」したというのは、大寺正兵衛関係の筋だったと思われます。
なお、黙阿弥は明治18年(1885年)11月、千歳座で上演された『四千両小判梅葉(しせんりょうこばんのうめのは)』で、この御金蔵破りの一件を実説通り脚色しています。