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極楽寺の所化・清心(しょけ・せいしん)は、大磯扇屋(おおいそおうぎや)の遊女・十六夜(いざよい)との関係が発覚し、女犯(にょぼん)の罪で寺を追われます。これを知った十六夜も、清心を追って廓(くるわ)を抜け出します。十六夜は清心の子を身ごもっており、廓勤めのならない体でした。稲瀬川百本杭でばったりと出会ったふたりは、この世で添えないならばと心中を決意し、ともに川に身を投げます。
川に身を投げた十六夜は、俳諧師・白蓮(はくれん)と船頭・三次(さんじ)が引く四つ手網(よつであみ)にかかり、命を救われます。
一方、下総行徳[現在の千葉県市川市南部]の生まれの清心は幼い頃から水練の心得があるので、死にきれずに岸に上がってきます。そこへ寺小姓・求女(もとめ)が50両の金を持って通りかかります。清心は求女が癪(しゃく)に苦しむので、介抱しようとして懐の金に気づきます。十六夜の供養のために金を借りようとして揉み合ううち、清心は誤って求女を殺してしまいます。清心は一旦は自害しようとしますが、遊山船の騒ぎ唄(さわぎうた:賑やかな音楽)を聞くうちに、悪の道に生きようと心変わりします。なお、求女は実は十六夜の弟なのですが、清心はそのことを知りません。
白蓮は十六夜改めおさよを身請けして妾(めかけ)とし、その父・佐五兵衛(さごべえ)の世話までしてやっています。おさよは白蓮の目を盗んでは清心の位牌(いはい)に回向(えこう:仏事供養をすること)します。それを見つけた白蓮は、おさよの貞節に感じ入り、尼になることを許します。一方、佐五兵衛は十六夜の弟・求女の菩提を弔うため剃髪(ていはつ)して西心(さいしん)と名乗ります。尼になったおさよと西心は白蓮に暇をもらい、諸国修業の旅に出ます。
清心改め鬼薊清吉(おにあざみせいきち)とおさよは地獄谷にて再会します。
清吉と夫婦になったおさよは、今は悪事がすっかり板に付いており、ふたりは白蓮の家に出かけ、金をゆすります。白蓮は百両の包みを出します。その封印を見ると、幕府から極楽寺に奉納された祠堂金(しどうきん)の封印でした。いま、白蓮が祠堂金の盗賊・大寺正兵衛(おおでらしょうべえ)であることがわかります。また、白蓮が清吉の生まれ育ちを聞くと、清吉は白蓮の弟であったと知れます。そこへ捕手(とりて)が押し寄せます。
おさよの父・西心は無縁寺の墓守となっています。清吉と子どもを抱いたおさよが会いに来ます。西心の話で、清吉が殺した求女は十六夜の弟であり、奪った50両は清吉[清心]のために用立てた金であったことがわかります。清吉は申し訳なさに死のうとしますが、誤っておさよを殺してしまいます。そのとき、早桶(はやおけ:粗末な円筒形の棺桶)にかくれてここまで逃げてきた正兵衛が現れ、清吉はその介錯(かいしゃく)で切腹して果てます。また、子どもは西心が預かることとなります。このあと、正兵衛が捕手に囲まれて幕となります。
注釈:ここでは、国立劇場第214回歌舞伎公演をもとに、「あらすじ」を紹介しています。
台本は、『黙阿弥全集』第3巻[『花街模様薊色縫(さともようあざみのいろぬい)』]に収録されています。