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南北劇の特色 新たな役どころの確立

悪婆(あくば):悪事もいとわない美しい年増女

『絵本合法衢』
うんざりお松
6代目尾上梅幸

気が強くて、情が深く、好きな男のためなら悪事をもいとわない美女です。
「悪」とは社会の常識から逸脱していること。天明の大飢饉や寛政の改革で田舎から江戸に出て来た若者たちのなかに現れた男性に頼らずに生きる女性たちがモデルでした。
南北の創った悪婆にはふたつの系譜があります。
まず、『絵本合法衢(えほんがっぽうがつじ)』(文化7年[1810年])に登場する「うんざりお松(うんざりおまつ)」です。お松は「14歳で村を出奔してから25歳になるまでに持った亭主が16人、善いことは知らないが悪いことには如才がない」と言い放ちます。抜群の美貌を誇った27歳の2代目尾上松助(おのえまつすけ)のちの3代目尾上菊五郎(おのえきくごろう)がお松を演じました。
もうひとつの系譜は4・5代目の岩井半四郎(いわいはんしろう)。父の4代目半四郎は『大船盛鰕顔見勢(おおふなもりえびのかおみせ)』(寛政4年[1792年])で「三日月おせん」という役柄を演じました。おせんは、女性でありながら肝がすわった義侠(ぎきょう)の女で、溢れるばかりの愛嬌をふりまきながら颯爽(さっそう)と立ち去っていきます。南北は5代目半四郎のために、『於染久松色讀販(おそめひさまつうきなのよみうり)』(文化10年[1813年])で「土手のお六(どてのおろく)」という役を作り出しました。お六は男言葉の啖呵(たんか)を切って、ゆすりを働きます。『杜若艶色紫(かきつばたいろもえどぞめ)』(文化12年[1815年])にも土手のお六は登場します。この作品では見世物小屋の蛇使いの女になりました。
南北と5代目半四郎が文化14年(1817年)に上演した『桜姫東文章(さくらひめあずまぶんしょう) 』では、堕落した桜姫(さくらひめ)が風鈴お姫(ふうりんおひめ)になりますが、その役柄も悪婆という女性像を発展させたものでした。

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