TOP > 南北劇の特色 > 新たな役どころの確立(色悪:悪事を働く冷血で美しい二枚目)
前のページに戻る

南北劇の特色 新たな役どころの確立

色悪(いろあく):悪事を働く冷血で美しい二枚目

『東海道四谷怪談』
民谷伊右衛門
15代目市村羽左衛門

容姿もよく、表面的には善人ですが、実は悪人という役柄です。
代表的な色悪は『東海道四谷怪談(とうかいどうよつやかいだん)』(文政8年[1825年])の民谷伊右衛門(たみやいえもん)です。
伊右衛門はお岩(おいわ)と結婚していましたが、御用金を横領し、義父の四谷左門(よつやさもん)に気づかれ、離縁させられてしまいます。お岩と復縁するために左門を殺しますが、お岩が出産すると疎んじて、惚れられた金持ちの娘・お梅(おうめ)との結婚を承諾。毒薬で顔の変わったお岩をいたぶり、さらには奉公人の小仏小平(こぼとけこへい)にお岩殺しの罪をかぶせて殺します。ざっと紹介しただけでも、横領、裏切り、殺人と悪事の連続です。伊右衛門の初演は7代目市川團十郎(いちかわだんじゅうろう)。35歳の男盛りの人気俳優が冷徹に悪事を積み重ねるコントラストが色悪という役柄を際立たせました。
南北作品には、『東海道四谷怪談』以前にも、色悪の原型となるキャラクターたちが登場していました。共通しているのは、女性を手に入れるために、その父を殺し、さらには女性も殺すこと。『謎帯一寸徳兵衛(なぞのおびちょっととくべえ)』(文化8年[1811年])で5代目松本幸四郎(まつもとこうしろう)が扮した大島団七(おおしまだんしち)は、お梶(おかじ)の父を殺して結婚しますが、病気を患ったお梶も惨殺します。『法懸松成田利剣(けさかけまつなりたのりけん) 』の与右衛門(よえもん)も怨霊のたたりで変わり果てたかさねを殺しますが、彼はかつてかさねの父親も殺していたのです。この作品は文政6年(1823年)の上演で、与右衛門は團十郎が演じました。南北は團十郎とともに色悪という役柄を完成させていったのです。

ページの先頭に戻る