TOP > 南北劇の特色 > 新ジャンルの形成(生世話物:化政時代の世情を映し出したリアリズム)
前のページに戻る

南北劇の特色 新ジャンルの形成

生世話物(きぜわもの):化政時代の世情を映し出したリアリズム

江戸時代の歌舞伎の舞台には、歴史的な物語を扱う「時代物」と当時の町人の生活を題材とした現代劇「世話物」がありました。もともとは1日の舞台で両方の劇を関連させながら上演していましたが、寛政6年(1794年)に江戸に下った狂言作者・並木五瓶(なみきごへえ)がそれぞれを独立した内容で構成したことを発端に、時代物は一番目、世話物は二番目という分け方が定着します。文化期になると、南北は新しい独自のジャンルとして「生世話物(きぜわもの)」を確立していきます。
 南北の生世話物は、それまでの世話物が描くことのなかった最下層の人々の生活をリアルに描写するところに特色がありました。江戸っ子である観客は自分たちがよく知る出来事や事件に、よりリアリティを感じながら観劇をしたことでしょう。
 南北は芝居町(しばいまち)近くに生まれて以来、狂言作者として大成するまでの間、社会の底辺で暮らす人々の生活もつぶさに観察してきました。生世話物では、同じ視線の高さで描写したリアルタイムの庶民の暮らしぶりや風俗を作品の場面に織り込んでいきました。とりわけ、文化・文政期に江戸になだれ込んできた地方の若者たちの価値観を、5代目松本幸四郎(まつもとこうしろう)が演じる悪人像や5代目岩井半四郎(いわいはんしろう)の確立した悪婆(あくば)という女性像を通じて表現していったのです。

ページの先頭に戻る