【初演年】 文政6年(1823年)3月6日
【初演座】 市村座
鶴屋南北が69歳のときの作品です。
7代目市川團十郎(いちかわだんじゅうろう、33歳)は不破伴左衛門(ふわばんざえもん)と幡随院長兵衛(ばんずいちょうべえ:幡随長兵衛とも)、3代目尾上菊五郎(おのえきくごろう、40歳)は名古屋山三(なごやさんざ)と傾城・小紫(けいせい・こむらさき)、5代目瀬川菊之丞(せがわきくのじょう、22歳)は傾城・葛城(けいせい・かつらぎ)と下女・お国(げじょ・おくに)に、それぞれ2役に扮しました。先輩の5代目岩井半四郎(いわいはんしろう、48歳)は白井権八(しらいごんぱち)と幡随院長兵衛(幡随長兵衛)の女房・お時(おとき)に扮しました。
人気狂言の『鈴ヶ森(すずがもり)』と歌舞伎十八番『鞘当(さやあて)』(通称:不破)の原作となった作品です。名古屋山三と下女・お国の物語は通称を「あざ娘」という南北の書き下ろした名作です。
「不破・名古屋」の『鞘当(さやあて)』と「権八・小紫」の情話(じょうわ)を綯い交ぜ(ないまぜ)にした作品です。初代團十郎の当り役「不破」を復活してみたいと言う7代目團十郎の要望に沿って南北が書き下ろしたものです。南北は、山東京伝(さんとうきょうでん)の読本(よみほん)『昔話稲妻表紙(むかしがたりいなずまびょうし)』(文化3年[1806年])をもとにして、「あざ娘」の趣向を書き下ろしました。
文政期の2大スター、3代目尾上菊五郎と7代目市川團十郎が共演した名作のひとつです。
この共演には5代目岩井半四郎が大きな役割を果たしています。4年前の文政2年(1819年)3月 に團十郎は玉川座で『助六(すけろく)』を上演しました。それに対抗して菊五郎は中村座で『助六』を出しました。双方のファンを交えた競い合いになり、それが高じてふたりの名優は口もきかない仲になりましたが、先輩の半四郎がふたりの仲を取り持って共演が実現しました。『鞘当』で團十郎の不破と菊五郎の名古屋が白刃(しらは)を抜いて争うなかに半四郎の「留め女(とめおんな)」が割って入るのは、そのことを当て込んでいるのです。