本作品の魅力はまず、メリハリの効いた舞台の展開にあります。豪華絢爛(ごうかけんらん)な新清水。権助(ごんすけ)と桜姫(さくらひめ)の濡れ場の草庵(そうあん)。隅田川河畔で落ちぶれた清玄(せいげん)と桜姫が「やぶれ衣にやぶれ傘」の姿ですれ違う、物悲しい情感の溢れる三囲(みめぐり)。殺人や死人の蘇生が繰り広げられる庵室(あんじつ)。そして、吉田家の復興を誓う華やかな浅草。鮮やかな色彩と陰鬱(いんうつ)な空気が同居する物語は、華やかな文化を謳歌(おうか)した文化・文政期の光と影を映し出しているようです。
桜姫のせりふも見所です。女郎屋に落ちて汚い言葉とお姫様の言葉が入り乱れながら、亡霊となった清玄を追い払うシーンです。姫と女郎という対極にある役柄を交ぜながら演じるのは、俳優にとっても至難の技と言えるでしょう。
そして、この物語のドラマ性こそが一番の見所と言えます。男と女、男と男の愛欲、金や権力への欲望が入り乱れ、登場人物たちはそれを手に入れるためであれば人殺しも厭(いと)いません。人間の本性を明らかにする『桜姫東文章』のドラマ性は、現代にも充分に通じるものがあると言えるでしょう。