武智光秀(たけちみつひで)は小田春永(おだはるなが)から勅使(ちょくし)をもてなす饗応役(きょうおうやく)を任命されます。光秀は贅(ぜい)を尽くしてもてなしましたが、それがかえって春永の機嫌を悪くします。光秀は春永に仕える森蘭丸(もりらんまる)に鉄扇(てっせん)で額を打たれ、血を流します。
武智光秀は妹の桔梗(ききょう)の執り成しで春永への目通りを許されます。
しかし、そのときに差し出された盃(さかずき)が馬の体を洗う馬盥(ばだらい)だったのです。光秀は屈辱に身を震わせながらその酒を飲み干しました。光秀の妻・皐月(さつき)は浪人のときに、女の命である髪の毛を売りました。春永はその髪の毛を手に入れて、満座(まんざ)のなかで光秀に突きつけ辱(はずかし)めます。たったひとりになった光秀は髪の毛の入った箱を抱え、無念をかみしめながら、その場を去ります。
愛宕山(あたごやま)の信徳院(しんとくいん)で連歌の宗匠・紹巴(そうしょう・じょうは)は光秀に謀反(むほん)を勧め、斬り殺されます。春永の上使(じょうし)に切腹を仰せつかった光秀は、辞世(じせい)の歌「時は今、天が下知る皐月かな(ときはいま、あめがしたしるさつきかな)」を詠みます。謀反を決意した光秀が上使を切り殺すと鎧姿(よろいすがた)の四王天但馬守(しおうてんたじまのかみ)が駆け付け、光秀の刀に付いた血糊(ちのり)を拭き取ります。光秀は、春永のいる本能寺に向けて出陣するのでした。
『時桔梗出世請状』の初演時の台本は、5幕12場の長編でした。
ここでは、現在上演されている場面を中心に、「あらすじ」を紹介しています。
初演時の台本の2幕目「山崎陣中の場」は、大名の真柴久吉(ましばひさよし:史実の羽柴秀吉[はしばひでよし])を料理番、加藤正清(かとうまさきよ:史実の加藤清正[かとうきよまさ])を蛇の目鮓売りにする、南北の得意な茶番の狂言で好評を博しました。
初演時の台本は、「鶴屋南北全集」第1巻に収録されています。