芦屋公光(あしやきんみつ)が京都紫野(むらさきの)にある雲林院を訪ね、花盛りの桜の枝を手折ろうとすると、1人の老人が現われてこれを咎めます。公光が、自分は日ごろ『伊勢物語』を愛読しているが、ある日の夢に、在原業平と業平の愛人二条后(にじょうのきさき)が現われ、ここへ来るよう導いたのだと告げると、老人は自分が業平であることをほのめかし、「今夜はここに留まって夢の続きを待ちなさい」と言って姿を消します。その夜、公光の夢の中に業平が現れ、『伊勢物語』に記される業平と二条后の恋を語りつつ、昔を懐かしんで舞を舞います。
古歌を詠み込みつつ交わされる問答や、シテ業平の典雅な舞からは、王朝的な趣が存分に感じられます。ただ、この曲は古い作品の改作で、残っている世阿弥の自筆本を見ると、後場で二条后の兄、藤原基経が鬼となって現れるという、現在のものと全く異なる展開になっています。当時は、今とは相当に違った雰囲気で演じられていたようです。