京都の西にある大原山に男たちが桜見物に出かけると、桜の枝をかざし、華やいだ風情の老翁があらわれます。男が話しかけると、老人は古歌を口ずさみつつ昔を懐かしみますが、花に興じているうち夕霞の中に姿を消します。その夜、人々が花の陰に仮寝すると、夢に在原業平が花見車に乗って、在りし日の麗しい姿を現します。業平は『伊勢物語』の歌を引きながら、女たちとの恋愛模様を回想しつつ優美に舞を舞い、やがて花吹雪の中へと消えていきます。
この能では、『杜若』や『雲林院』と同様、業平と二条后との恋物語が語られますが、主眼はむしろ、咲きほこる桜花の爛漫たる風情を出すことに置かれています。全編に『伊勢物語』の歌がちりばめられ、豊かな香気をたたえています。