諸国一見の僧が在原寺に立ち寄り、在原業平と紀有常(きのありつね)の娘夫婦の旧跡を弔います。するとそこに若い女が現れ、業平と有常の娘との恋物語を語り始めます。庭の井戸のほとりで背比べした幼馴染の2人は、やがて成人し、「筒井筒 井筒にかけしまろが丈…」「比べ来し 振り分け髪も 肩過ぎぬ…」と互いに歌を詠みあって、恋をみのらせます。その後、業平は別の愛人のもとへ通うようになりますが、有常の娘はそれを咎めるどころか、業平の身を案じる歌を詠み、業平も娘のもとへと戻るのでした。語り終えた女は、自分こそ有常の娘であるとほのめかし、姿を消します。夜がふけると僧の夢の中に、有常の娘が業平の形見の装束を身につけて現れ、静かに恋慕の舞を舞います。水面に映る自分の姿に、恋しい夫業平の面影を重ねる娘は、なおも業平への想いをつのらせますが、やがて夜明けとともに僧の夢は覚め、娘も姿を消します。
『井筒』は、美的な情趣の豊かな三番目物の中でも最も三番目物らしいとされる作品で、また、夢幻能(むげんのう)の代表作とも言われています。