『葵上』を鑑賞する

  1. 『葵上』
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その五 生霊と小聖の戦い

能(喜多流)『葵上』
平成12年3月11日 国立能楽堂
〔シテ〕塩津哲生 〔ワキ〕福王茂十郎

横川小聖[ワキ]が悪霊を祈り伏せる祈祷を行なっていると、鬼の形相(ぎょうそう)をした六条御息所の生霊[後シテ]が現れます。御息所は彼に襲いかかりますが、行者も負けじと、数珠を揉んで懸命に祈り、立ち向かいます。2人の攻防のさなかには、「イノリ」という音楽が力強く演奏されます。僧や山伏が鬼などを祈り伏せる時に演奏される、特殊な太鼓のリズムが印象的な音楽です。イノリが奏される間、御息所は打ち杖(うちづえ)を振りかざし、行者は数珠を手に祈り伏せようと、両者は戦いの様子を見せます。この2人の戦いは舞台の中央だけではなく、舞台の端や橋掛リ(はしがかり)の部分でもダイナミックにくりひろげられ、戦いの激しさがうかがえます。


しばし無言で戦いの様子を見せた後、御息所は「いかに行者、はや帰り給へ、帰らで不覚し、給ふなよ」―行者よ早く帰りなさい、帰らないで後悔なさるなよ―と行者を威嚇(いかく)しますが、行者も必死で祈ります。この時に行者が唱える呪文は、山伏の信仰する不動明王(ふどうみょうおう)の力をたたえて、その助けを乞う文句です。これは能で山伏が鬼などを退散させるときの定番の呪文です。ついに、御息所は行者の祈祷の力に負け、怒りに燃えた心をやわらげます。

その四


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