『葵上』を鑑賞する

  1. 『葵上』
  2. 『葵上』を鑑賞する
  3. 鑑賞のポイント
  4. その三 激しい思いの吐露
  5. 詞章

その三 激しい思いの吐露

詞章

わらはは蓬生(えもぎふ)の、もとあらざりし身となりて、葉末の露と消えもせば、それさへことに恨めしや、夢にだに、返らぬものをわが契り、昔語りになりぬれば、なほも思ひは真澄鏡(ますかがみ)、その面影も恥づかしや

「蓬生」はヨモギが生い茂るような荒れ果てた場所のことで、六条御息所の生霊は光源氏に捨てられたわが身を、そのようなわびしいものになぞらえています。源氏の愛を受け続ける正妻葵上の立場と、葉先から今にも落ちてしまいそうな露のように、はかなく死んでしまうだろう自分の行く末を比べて、葵上に恨みをつのらせます。夢の中でさえ取り返せない源氏との恋は昔のこととなり、捨てられてもなお恋の思いが増すばかりであると嘆くのです。恨みと悲しみに心を乱しながらも、源氏へ執着する自分を恥ずかしく思っています。御息所の激情と理性がせめぎ合う心の乱れが伝わる場面です。自分でも抑えることのできない恨みに心を高ぶらせ、なおかつそのような状態にあっても、嫉妬心を恥じる誇り高い御息所には哀れさも感じられます。



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