
「蓬生」はヨモギが生い茂るような荒れ果てた場所のことで、六条御息所の生霊は光源氏に捨てられたわが身を、そのようなわびしいものになぞらえています。源氏の愛を受け続ける正妻葵上の立場と、葉先から今にも落ちてしまいそうな露のように、はかなく死んでしまうだろう自分の行く末を比べて、葵上に恨みをつのらせます。夢の中でさえ取り返せない源氏との恋は昔のこととなり、捨てられてもなお恋の思いが増すばかりであると嘆くのです。恨みと悲しみに心を乱しながらも、源氏へ執着する自分を恥ずかしく思っています。御息所の激情と理性がせめぎ合う心の乱れが伝わる場面です。自分でも抑えることのできない恨みに心を高ぶらせ、なおかつそのような状態にあっても、嫉妬心を恥じる誇り高い御息所には哀れさも感じられます。
