『葵上』を鑑賞する

  1. 『葵上』
  2. 『葵上』を鑑賞する
  3. 鑑賞のポイント

その一  出し小袖(だしこそで)

能(喜多流)『葵上』

能(喜多流)『葵上』
平成12年 3月 11日 国立能楽堂

『葵上』という曲名ではありますが、この能では、葵上を演じる役者が実際に舞台に登場することはありません。そのかわりに、囃子方(はやしかた)・地謡(じうたい)がそれぞれの位置についた後、後見(こうけん)によって小袖が舞台正面先に置かれます。この小袖を「出し小袖」といい、病床の葵上を表しています。それゆえ『葵上』の話が、葵上の病室で起こることがはっきりとわかります。舞台上に置かれた1枚の着物が、作品名となっている人物を象徴し、かつシテやワキはこの小袖を向いて演技をすることが多いので、この小袖は演技の焦点ともなります。また、対立する2人の女性の役が両人とも舞台に登場するのではなく、葵上は登場しないので、シテの六条御息所の心情を、深くていねいに表現することに成功しています。

※映像は、小書(こがき)[特殊演出]での上演です。常の上演とは異なるところがあります。

  • その一 出し小袖
  • その二 六条御息所の生霊登場
  • その三 激しい思いの吐露
  • その四 横川小聖の祈祷
  • その五 生霊と小聖の戦い

能(喜多流)『葵上』 平成12年 3月 11日 国立能楽堂

能(喜多流)『葵上』 平成12年 3月 11日 国立能楽堂

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小書

能の演目には通常の演出のほかに、替え演出を持つ曲も多くあり、この演出のことを小書(こがき)といいます。能のプログラムである番組において、曲名の下に小さく書かれることによる名称です。

今回の映像には「梓之出(あずさので)」と「長鬘(なががつら)[長髢(ながかもじ)とも]」という2つの小書が付いています。
梓之出は、前シテの通常の登場の音楽が省かれ、梓弓(あずさゆみ)の音を表す小鼓(こつづみ)の印象的な音色が繰り返される中、シテが登場します。生霊が巫女の祈祷に導かれて現れたことが強調される演出です。さらにこの小書では、前半の終わり方にも違いがあります。通常の演出の場合、シテは舞台の奥に下がって後半の扮装に着替えますが、梓之出では幕の内へ入ります。長鬘は、通常の後シテの仮髪(かはつ)に、さらに2メートルほどの長い髪を結びつけ、その髪を手に巻きつけワキに投げつける所作が加わるなど、扮装の変更に伴い演技にも変化が出る小書です。

小書による変化は1か所だけではなく、役の扮装や謡の文句や演技のスピードなどさまざまな面にわたります。また小書は単なるアドリブではなく、それ自体が決まりとなっています。

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