歌舞伎への誘い 〜鑑賞の手引き〜
歌舞伎の演目
『伽羅先代萩』 めいぼくせんだいはぎ
作品紹介
江戸時代の仙台藩伊達家(だてけ)のお家騒動に取材した作品で、奥州の足利家の執権(しっけん)仁木弾正(にっきだんじょう)や妹八汐(やしお)らが、足利家の乗っ取りを企む物語です。
乳母政岡(まさおか)が自らの子を犠牲にして、悪人一派から幼い主君鶴千代(つるちよ)を守る通称「御殿(ごてん)」、御殿の床下で警護をしていた荒獅子男之助(あらじしおとこのすけ)を鼠の妖術によって出し抜いた弾正が、悠然と去っていく通称「床下(ゆかした)」、弾正が細川勝元(ほそかわかつもと)による裁判に敗れ、抵抗の末に成敗される通称「対決(たいけつ)」・「刃傷(にんじょう)」などの各場面を中心に上演されます。
政岡は「御殿」の主役であり、「片はずし(かたはずし)」とよばれる御殿女中役の中でも大役とされています。また仁木弾正は、悪の色気を見せる「国崩し(くにくずし)」とよばれる敵役(かたきやく)の大役として有名です。
 
「御殿の場」と「床下の場」を描いた錦絵 左から仁木弾正 政岡 鶴千代 千松 男之助
 
 
 
特徴的な表現
クドキ
政岡の息子千松(せんまつ)は、鶴千代を守るようにという母の日ごろの教えを守り、弾正一派の栄御前(さかえごぜん)が持参した、不審な菓子を真っ先に口にします。この菓子には、鶴千代を殺すための毒が仕込まれており、それを知られたくない八汐は、政岡の目の前でとっさに千松を刺し殺します。しかし政岡は、鶴千代を懐に抱いて守りながら動揺をまったく見せません。
政岡は、人々が去り1人になったとき初めて、千松を失った悲しみを露にします。政岡が「でかしゃった」と千松の忠義を褒めるこの場面は、「クドキ」とよばれる「竹本(たけもと)」の聞かせどころであり、三味線に合わせて音楽的なせりふ回しとしぐさで心情を表現する見せどころです。
 
 
 
スッポン
「床下」では、仁木弾正が「花道(はなみち)」の「セリ」に乗って登場します。この「セリ」は、特に「スッポン」とよばれ、忍術使い・妖怪・幽霊など非現実的な役の出入りに使用されます。弾正は、鼠の妖術を使うという設定であるため、この「スッポン」から登場します。このとき場内の照明は暗くなり、弾正は「差出し(さしだし)」[面明り(つらあかり)]とよばれる蝋燭(ろうそく)による古風な照明で照らされます。この照明は、弾正の怪しさをより際立たせる効果があります。
スッポンから登場する仁木弾正 9代目松本幸四郎の仁木弾正 『伽羅先代萩』「足利家床下の場」 1998年[平成10年]11月
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