歌舞伎への誘い 〜鑑賞の手引き〜
歌舞伎の演目
『梅雨小袖昔八丈』 つゆこそでむかしはちじょう
通称 『髪結新三』 かみゆいしんざ
作品紹介
河竹黙阿弥(かわたけもくあみ)作の「世話物」で、主人公の名前をから通称『髪結新三(かみゆいしんざ)』とよばれています。
新三は、白子屋(しらこや)の番頭忠七(ちゅうしち)をそそのかして、店の娘のお熊を連れ去ります。新三は、掛け合いにきた親分の弥太五郎源七(やたごろうげんしち)を追い返しますが、続いてやって来た家主の長兵衛(ちょうべえ)には歯が立たず、30両と引き換えにお熊を手放すことにします。しかし長兵衛は、新三をやり込めて15両と鰹(かつお)を半分せしめます。やがて新三は、顔を潰された恨みから復讐の機会を狙っていた源七に待ち伏せをされて討たれます。
通常、忠七をそそのかす「白子屋見世先の場(しらこやみせさきのば)」から、源七の復讐を受ける「深川閻魔堂橋の場(ふかがわえんまどうばしのば)」までが上演されます。
 
 
 
特徴的な表現
傘尽くしの名ぜりふ
「永代橋の場(えいたいばしのば)」で、新三が忠七に対して投げつけるように言う長ぜりふがあります。七五調のリズムの中に、傘に関連する言葉が散りばめられている名ぜりふとして有名です。ここでは、その冒頭部分をお聞きください。
傘尽くしの名ぜりふ[一部] 5代目中村勘九郎(18代目中村勘三郎)の新三 3代目中村橋之助の忠七 『梅雨小袖昔八丈』「永代橋川端の場」 1988年[昭和63年]4月
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新三の傘尽しの名ぜりふ
「不断(ふだん)は帳場を回りの髪結、いわば得意のことだから、うぬのような間抜け野郎にも、ヤレ忠七さんとか番頭(ばんとう)さんとか上手(じょうず)をつかって出入りをするも、一銭職(いっせんしょく)と昔から下がった稼業の世渡りに、にこにこ笑った大黒(だいこく)の口をつぼめた傘(からかさ)も、並んでさして来たからは、相合傘(あいあいがさ)の五分(ごぶ)と五分(ごぶ)、轆轤(ろくろ)のような首をしてお熊が待っていようと思い、雨の由縁(ゆかり)にしっぽりと濡(ぬ)るる心で帰るのを、そっちが娘に振りつけられ弾き(はじき)にされた悔しんぼ(くやしんぼ)に、柄(え)のねえところへ柄(え)をすえて、油紙(あぶらかみ)へ火のつくようにべらべら御託(ごたく)をぬかしゃアがると、こっちも男の意地づくに覚えはねえと白張りのしらをきったる番傘(ばんがさ)で、うぬがか細い(かぼそい)そのからだへ、べったり印(しるし)を付けてやらア」
 
 
 
初鰹
歌舞伎は、季節感を重視する演劇です。この作品は初夏の設定ですが、それを際立たせているのが「富吉町新三内の場(とみよしちょうしんざうちのば)」に登場する初鰹売り(はつがつおうり)です。江戸っ子はその季節の走りにとれた野菜や果物、魚などを「初物(はつもの)」として珍重する習慣がありました。この場面で新三が買った初鰹は、後で家主長兵衛とのやり取りでも重要な小道具となります。季節感を表すと同時に、物語の展開にも効果的に使用される初鰹から、黙阿弥の名作者ぶりがうかがえます。